俺達のコラム

 このページは、私と同じ屋根の下に暮らす、Pretty Ladyさん(と、いっても同じマンションの住民という意味)が執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。


ときめき(その10)
「自由主義と民主主義」

・・・大層な件名で、久々にときめき通信を送ります。

◆ ■ ◆ ■ ◆


随分ご無沙汰していました。
忙しかった?
うん、忙しかった。
そんなに売れている?
まあまあかな。

時々、面白いことなんかあって、知らせたいなぁ、と思ったことも何度かあっただけれど、いろいろな事をやっていて、文章を書く作業ができないでいたかな。やっていた事はみんなそれぞれに楽しく、面白かったの。通訳、翻訳、そして音楽をね。通訳は最近、大人数の前でやることが多くなって、それなりに遣り甲斐があるけれど、心臓が壊れそうになる。特に初めてのクライアントのところに行くときは。何をしゃべり出すか全くわからないものね。
たとえば、プレゼンの時は、資料を事前にもらっていたとしても、資料からはみ出してさまざまな事を言い出す。固有名詞がざーっと5つも6つも早口で言われたときは、「ぎゃっー!」と悲鳴を上げそうになるわ。30人も50人もいる前でね。
そんなこんなで、最近は初めての顧客のところに行く時は、安定剤を飲んで行ったりする。これが効くんでびっくりしているわ。落ち着くのなんのって、こんなに効果があるのだったら、もっと以前から飲んでおくんだった。

最近ライブをやったの。その時も、「歌詞を忘れはしないか、忘れた時に頭が空白になって伴奏に遅れはしないか」と昔から同じことを案じる自分に、「えい、飲んじゃおう」と安定剤を入れたら、落ち着いてびっくり。ところがその安定剤のせいか、どうか分からないけれど、途中から声が出なくなってしまったわ。やっぱりあわてちゃった。今度は伴奏より早くなっちゃった。バンドは慌てたみたい・・・

◆ ■ ◆ ■ ◆


最近の”うなった”話、まさしくこの件名のことなんだけれど、「自由主義と民主主義の弊害」とでも言った方がよりメッセージに近いかな。
つい最近、フランス人の通訳をしたの。といってもフランス語でしたわけでなく、相手が英語をしゃべるわけ。その彼が今のフランスの経済とフランス人の気質に関して話してくれたんです。

私たちは、東京駅から成田エキスプレスに乗って成田空港に向かっていた。席に着いてまもなく、携帯電話を使用しないよう、車内のアナウンスがなった(日本語と英語で)。
通路を隔てて座っている日本人の男性が自分の携帯の電源を切ったか、またはマナーモードにしたようだ。それを見て、私の横に座っている私の顧客、フランス人の青年が感心している。「フランスではこうは行かない。こん
なアナウンスが流れても、それは個人の自由を侵害する事だと言って決して従わないよ。だから電車の中は携帯電話を使う人の声でうるさいんだ。それはそれはすごいよ。フランスの今の経済が成長しないのも、ここに理由があるんだよ。前に進まないんだよ。皆歩調を合わせようとしないからね。"old Europe"のままなんだよ。」

”Old Europe!"(昔のヨーロッパ)これって、米国のラムズフィールド国防長官が、米国のイラク戦争に加担しないフランスやドイツを皮肉った言葉だと思っていたけれど(でもどういう意味か分からなかった)、ヨーロッパ人の間に浸透している言葉なんだ!

「フランスは、あまりにも自由主義と民主主義が浸透しすぎて、前に進まないのさ。」いわゆる個人主義か。ここからディベートが始まった。

なぜ前に進まなければいけないの。私たち先進国は十分に前に進んだんじゃないかな。なぜこれ以上進まなければならないの。前に進むって、もっとお金を手にすること、豊かな生活をすることでしょう。私達十分に豊かじゃないかな?ヨーロッパの良さって、個人主義にあるんじゃないかな。例えば、もう60才も近いのに無名の俳優のまま、洋服といったら殆どが常に古着屋さんで購入してきているような服を着て、劇場でアーシャーをやりながらオーディションで役をゲットすることを生きがいに生活をしているイギリス人を知っているわ。でもその人の生き方を周りのイギリス人たちは尊重しているような気がする。お金だけで人を測っていない、そこにヨーロッパの良さがあるんじゃないかしら。それが私の知っているアメリカと大きく違うところよ(もちろんそうでないアメリカ人も多
いと思うけれど)。私は個人的には、フランスがアメリカのような"マネーマネー”の国になろうとして欲しくないわ。競争が奨励されるけど、どうかな? 
もっと人間的なあったかい物を大事にし続けて欲しいな。あなたの国にはすばらしい文化があるじゃないの。

「すばらしい文化?モリエールかい、ボーボワールかい。それは古墳だよ。いいかい、イギリス人が、今はフランスでものが買いやすくなったと言うんだよ、イギリス人がだよ!。これは今までありえなかったことなんだよ。今イギリス人たちが南仏の田舎にセコンド・ハウスを建てているんだよ。」

あら、良いじゃない。それはフランスが彼等にとって大変魅力的な国だからよ。
誇りに思ったら良いわ。だって貴方がたフランス人はイギリスのような湿っぽい暗い国にわざわざ家を構えようなんて思わないでしょ(ごめんなさい、イギリス人さま)。フランスはイギリス人にとって、美しい憧れの国なのよ。

「勿論あんなところに住みたくなんかないさ。でも僕が言いたいのはね、彼らの経済が良くなっているのに、フランスは成長していない、ということなのさ。スペインも今は良くなっている。ドイツは東西統合してしまったことで、まだ大変なんだ。今後まだ長くかかるだろうね。」

フランス経済は下降していないんでしょう、ただ、停滞しているだけでしょう。
なぜあなた方はそんなにイギリスに対し常に優越感を持っていたいの。これまでイギリスの経済は大変だったじゃない、スペインもヨーロッパの中ではシタズミが長かったわよね。だから交代よ。良いじゃない、交代させてあげたら。その内またフランスの番がやってくるわよ。

「・・・・・」

民主主義や自由主義も弊害ありか。パーフェクトなシステムなどない事を改めて感じたな。少しづつ微調整しながら、その国にとって最適な体制を創っていくという、当たり前のことをこれからもずっとしていくのね。日本は一番完成された社会主義国家だって、誰かが言っていたような気がする。「みんな一緒」結果平等(堺屋太一の弁ーーこれも問題ありで、結果平等が当然と思っているから、そうならない場合嫉妬心が生まれるんですって)。

このフランスの青年は31歳。どのような人か何の情報もないまま、ホテルのロビーで彼と待ち合わせた。現れた彼は、滑らかな白い肌が初々しいまだ少年の面影を漂わせていた。見た瞬間、私の胸が弾んじゃった。

Pretty Lady
(2004/**/**)



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