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広告代理店勤務、ロックミュージシャン(Blue Color Union)、ベイタウン中年バンド、2輪ライダー、数々の肩書きを持つNackyのセンスあるコラムを掲載。


Dreamland(2)〜GW最終日

 21才のゴールデンウィークの最終日、俺はその年のゴールデンウィークも特にどこにも行かなかった脅迫観念から、とにかくどこかに行きたかった。いや、GWはどこかに行かねばならないと、ガキの頃から心に決めているといったほうがいいのかもしれない。思い立ったら、大急ぎで昼飯をかき込み、ガレージのYAMAHA RZ350に跨がると、都心から関越道に乗り、五月晴れの空の下を北東の方向に向け走っていった。とにかく知らないところを走れるなら、行き先などどこでもよかった俺は、途中のインターチェンジで関越道から下りると、田舎道を気ままに走り続けた。東京と千葉で生まれ育った俺にとって、関越道周辺のアップダウンの続く道や、遠くに山々を抱く風景は新鮮だった。アテもなくワケもなく走り回っているうちに、陽が西に傾きはじめ、辺りは少しずつ暗くなってきた。と同時に、気温も急激に下がり始め、昼間の汗ばむ陽気につられてポロシャツ1枚でここまで来てしまったことを悔やみ始めた。暗いし寒いし空腹だしで、妙に心細くなり始めた俺は、とりあえず帰ろうと思い、さらにスロットルを開け走り続けた。

 気がつくと、俺は群馬のはずれの見渡す限りの田園風景の田舎道で、完全に道に迷ってしまっていた。陽はとっぷりと暮れて、あたりは真っ暗闇。民家はほとんど無く、街灯は数百メートルおきにポツリポツリと灯る、切れかけの水銀灯だけだ。心細げなバイクのヘッドライトに照らし出される道はやけに狭く、フロントフォークが激しく上下するほど路面が良くない。おそらく、あぜ道にアスファルトを流しただけの簡易舗装なのだろう。もし、この暗がりの中、路面に大きな段差やヒビ割れがあれば、RZ350では転倒してしまうだろう。俺は肩に力を入れたまま、イヤな緊張感とともに、何処ともつかない田舎道を、姿の見えない幹線道路を目指して走り続けた。ようやく農家と思える民家を見つけ、最寄りの高速道路インターチェンジへの道のりを尋ねてみると、かなり離れてしまっているのか、説明にも困っている様子で、道のりを聞いていてもサッパリ分からない。とりあえずの礼を言い、言われた方向へと再び走り出した。

 心細さと辺りの暗さ、そして空気の冷たさの中、家で心配して待っているであろう家族の顔や、明日の朝には大学の1時限目の教室にいなければならない焦りなどが一気にこみ上げ、半ベソ状態だった。田んぼでやかましいほど大合唱しているカエルとオケラの声だけが、俺を励ましているようだった。
 次の瞬間、遠くの低い位置に一筋の明るい星が見えた。走るにつれその星は次第に近く大きくなり、やがてそれは、この土地を走る路線バスだと分かった。こんな時間にもう最終バスなのだろうか、赤く照らされた行き先表示灯には「沼田駅」の文字がボンヤリと見えた。良かった、このバスについて行けば、少なくとも沼田の街に出ることができる。そしてそこから関越道までの道を探せばいいのだ、と少し安堵した。前をガタガタと走るバスに、ディーゼルのばい煙を浴びせられながらも、俺は明朝寝坊する言い訳をボケッと考えていた。と、次の瞬間、バスの薄暗い車内に、鋭い赤紫色の光線が走った。その「次とまります」と書かれた小さな赤紫色のランプは、座席に座っていた小さな子供が懸命に手を伸ばしてボタンを押したのだった。

 しばらく走ると、今にも崩れそうな木造の小屋があるバス停に停車した。小屋には、由美かおるが太ももとパンツをエロく見せている「アースマット」のブリキの看板と、浪花千栄子が思いっきり笑いながら小瓶を差し出す「オロナイン」のブリキの看板が、点滅している蛍光灯に暗く照らし出されている。

 やがて炭酸飲料の栓を抜くような音とともにバスの扉が開き、親子連れと思える三人が降り立った。父親を中心に小さい子供が二人、遠くに見える民家の灯りの方角に向け、ゆっくりと歩き出した。父親の吸うタバコの火が、暗闇の中で大きくなったり小さくなったりしている。その瞬間、ここは少しも暗くて寒い場所なのではないと悟った。ここは彼等にとっての温かい地、自分達のふるさとなのだ。ちっとも寂しい土地などではない、温かい家族が住む、温かい土地なのだ。ふと見上げると、夜空には満点の星空と天の川、そして遠くには山々の稜線が、月の光に照らされてクッキリと浮かび上がって見える。そう、そこは偶然にたどり着いた夢の国だった。さあ、先に走り去ってしまったバスを追いかけ、またひとっ走りだ。俺だって、自分の街に帰らなければならないんだ。

(その3に続く・・・かも)

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