「俺たち2」管理人による戯言
日記でもない、コラムでもない、単なる戯言。そんな感じ。
筆者は幕張ベイタウン在住のおやじ。結構、歳いってます。はい。
しばざ記
 [INDEX-13]   >>> HOME


夕暮れの水無川畔。シルエットの富士が大きい。
「秦野の美味しい蕎麦屋さん」
秦野から蓑毛やヤビツ峠へ向かう道から少し外れた山奥に佇む名店。
そこは丹沢そばの「石庄庵」。




秦野駅近辺を走るロマンスカー。これに乗ってきたわけじゃないけれど。



山歩きに凝っているときは、ヤビツ峠なんてしょっちゅう来ていたのになあ。
2月初旬の神奈川県秦野市の夕方。そろそろ帰途に就こうかと思った。しかしだ、せっかく来たからには、すこぶる評判の良いそば処「石庄庵」を訪れたい。事前にネットから地図を印刷していた。地図を見ると、国道246号沿いで、駅から目測だと1.2キロメートルくらいだった。運動不足の解消にもいいし、見知らぬ街を歩くのは嫌いではないので、バスを使わずに歩いた。元々私はトレッキングが趣味で、色々な山を歩いている。かつてはこの丹沢辺りも良く歩いていた。

暮れなずむ水無川の大きな橋を渡り、北東へ向かって歩く。そうそう、途中でジャスコが格店舗の巨大な複合商業施設の脇を通り過ぎる。この施設のお陰で秦野市民はえらく買い物が楽しいのではないかと想像する。ジャスコといえば、イオングループ。その本社は幕張新都心にある。私とイオンはなんの関係もないけれど、秦野市民に「どうだまいったか!」と言いたい気分だった。いや、それは大げさだけど、地方に行ってジャスコを見る度に懐かしいような、くすぐったいような、ちょっと自慢したいような気分になる。いや、そうは言っても繰り返すが、私とイオンには何の関係もない。

そんなことを考えながら、目的地にはなんなく到着する。なんとシャッターが閉まっている。いや、良く見たら「石庄庵」は移転していた。後から聞いたら、既に一昨年の秋のことなので、移転からもう1年以上経っているのだ。うーむ、慌ててネットから印刷した地図はまがい物だったか。くそお。太陽が沈みかけていた頃なので、がっかり感は大きい。このまま帰ろうかとも思ったが、ここで帰っては一生後悔しそうだ。暫し迷った挙句、せっかくここまで来たので、意地でも石庄庵のそばを食べてゆこうと決意した。一旦、246号を東京方面へ約300m歩き、そこでタクシーを拾った。目的地は丹沢表尾根のヤビツ峠のふもと、蓑毛だ。そこに移転した石庄庵がある。

あっと言う間に真っ暗になる。途中秦野市の街の灯りがちらほら見える緩やかな登りの道をタクシーは走る。段々と大山へ近づいている。周囲は民家も少ない寂しげな風景に変る。運転手さんは確かこの辺りだと言って、クルマを徐行した。迷っているようだ。私は、「どなたかに尋ねてみますよ。」と言ってクルマを降りた。星明りの山の中を歩いてみたかったらだ。それに迷っている間にタクシー料金が嵩むのも嫌だった。時刻は6時少し過ぎ。気温がどんどん下がってくる。2月上旬だから当然である。私は勘を働かせ、元来た道を少し下ることにした。すると、看板を発見。バス通りから入るように案内されている。

左:国道246号近くの川。おそらく水無川の支流だろう。
右:国道246号から見る富士。

舗装はしてあるが曲がりくねった道を歩く。看板の通りに歩いたつもりなのに、2、300m歩くと、再びバス通りに出てしまった。おかしい。けれど、人っ子一人歩いていないので、道を訊きたくてもそれが出来ない。私の靴音だけがコツコツと響いている。ある民家の前を通ったら、次のような会話が聞こえてきた。

「あのね、保健所がどうやら連れていっちゃったみたいだよ。お母さんね、今から保健所に行ってくるよ。」と、子どもに向かって早口で喋る母の声。
「えーっ!なにそれ!ひどい!待って!私も行く!」と娘の声。
娘さんはおそらく中学生くらいではないだろうか。きっとお母さんが帰ってきたら、飼っていた犬だか猫だかがいなくて、近所の人に聞いたら、どうも保護されたようだと教えてもらったのだろう。お気の毒だ。なんとかわんちゃんだか猫ちゃんだかが無事なのを祈る。

今度は少しヤビツ峠へ向かって歩いた。ますます寂しい景色になってくる。前方に建設現場によくあるプレハブの簡易事務所のようなものあった。中から蛍光灯の光が周囲を明るく照らしていた。中に5、6人の男性が机に向かって仕事をしている。仕事を中断させて申し訳なかったが、道を尋ねてしまう。入り口付近で仕事をしていた一番若い方が親切にも、わざわざ紙に地図を書いて教えてくれた。

地図を見ると、うーむ、どこかで曲がらなくてはならない場所を見落としていたようだ。引き返さなくてはならない。思い切りロスしている。ま、でも、お陰で、やっと店を見つけた。先ほど道を尋ねた地点から1キロメートルくらい歩いたところだ。結構早歩きだったので、額に汗がにじんでいた。周囲には一軒も民家が無いひっそりした窪地の斜面にロッジ風の建物がライトアップされていた。時刻は7時前。閉店は8時なので、調理の時間も考えるとぎりぎりだ。

急いで中に入ると、若い店員さんが快く迎えてくれた。店内もまるでペンションのような感じ。木の香りと清潔感が漂っている。たくさんのお酒が並んでいる。私は越後の銘酒、「越の寒梅」を注文した。すっきりした清楚な味わい。苦労して来た甲斐があった。そば(十一せいろ)も併せて注文した。そして、酒をちびりちびりやりながら本山葵を摺る。

左:銘酒「越の寒梅」は1合で600円と、まずまずのお値段。半透明の徳利がより雰囲気をを高めている。
右:山葵を摺る作業もある意味そばを美味しく食べる儀式なのかもしれない。

左:これが十一そば。この手の店にしてはやや多目だと思う。正目の木のトレーがいい感じ。
右:みずみずさが伝わらなくて、まことに残念。

メニューには「石庄庵では、この丹沢地域にて自家栽培、契約栽培農家より玄蕎麦を確保し、自店にて石臼挽き製粉の蕎麦粉を作り出し、蕎麦粉十割外一つなぎの手打ち蕎麦に仕上げております。」と書いてある。期待しながら待つこと10分。みずみずしいそばに巡り会えた。細打ちの麺は半分透き通るような色合い。稚拙な写真では表現できずご容赦願いたい。

早速食べてみる。山葵を入れずに食べた。コシも風味も十分だ。しゃきっとた喉越し。申し分ない。つゆはあまり特徴が無いと思ったが、そばの美味しさを十二分に引き出すために主張を抑えているのだと思った。続いて、本山葵を入れて食べる。もちろんぐっと風味がアップする。さすがに評判の高い店。期待を裏切らない絶品のそばだった。

2009/2/15
しばざ記 625

(現地を訪れたのは2月6日なのだ。)
*茂野製麺WEBサイト「しげのオンラインショップ・茂野麺紀行」にも出稿してます。

▲このページの先頭へ


<<< 前の記事
次の記事 >>>

俺達のホームページ・パート2