「俺たち2」管理人による戯言
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長浦の「よろずや」へ行く
つげ義春の世界(あの名作の舞台へ

長浦という駅をご存知だろうか。千葉から木更津方面へ向かう内房線の途中にある小さな駅だ。その昔は、駅前にはほとんど民家はなく、その「よろずや」もぽつーんと佇んでいた。目の前は国道を挟んで海。店の裏側は山。漁師町だった。夜になると、東京湾の対岸の東京や横浜の灯りがちらちら見える。

今は、近所に大きなスーパーもできたし、かつて海だったところは埋め立てられて工場地帯になっている。ずいぶんと様変わりした。

私の敬愛する漫画家・つげ義春氏の「やなぎ屋主人」という作品がある。主人公が突然長浦の駅を降り立って、という出だし。そう、舞台はここ長浦。そして、「やなぎ屋」こそ写真の食堂「よろずや」なのである。主人公は泊まる場所が無くて、駅長から紹介されて、その「やなぎ屋」に泊まるのだ。

私は実家が木更津なので、この辺りは比較的詳しい。つげ義春の「やなぎ屋主人」は今から少なくとも二十数年前には読んでいて、長浦(漫画では「N浦」となっている)が舞台だったことは当然気にしていた。しかし、まさか、その店にモデルがあったとは知らなかった。最近、あるネットで実際にモデルになっている店があることを知って、そして今日行ってきたのだ。

しかも、驚いたことに、当時の漫画の設定と同じ状況にある。どういう状況かといえば、漫画では未亡人とその母親の経営しているお店という設定。実際も同じなのだ。上の写真の若女将は若くして夫(享年40歳)を亡くした。そしてお婆ちゃん(実の母親)と二人でお店を営んでいるのだ。漫画は昭和41年頃の作品だから、つげ氏を応対したのは今のお婆ちゃんのほうで、若女将はまだ子どもだった。

それにしても若女将はきれいな人だ。(上の写真参照)



お店の雰囲気は殆んど当時のまんまである。むしろ、つげ義春の作品(漫画)に合せて実物をつくったのではないかと疑ってしまうほどである。もちろん、漫画だから多少のデフォルメはあるものの、しかし、殆んどリアルなのだ。

お店と隣あわせの畳の間にいる大女将、つまりお婆ちゃんは、「なんせずっと二人でやってた店だし、平日は誰もお店に来ないし、儲からないから、昔のまま、こんな汚い店なのです。」と言った。

「こんな汚いお店にわざわざ来てくださって、有難うございます。つげ先生のお陰で、最近そうやってふらりとファンの方々が来てくださるようになりました。でも、本当に時々で、いつもは誰も来ません。」と若女将。それを裏付けるように、ラーメンを注文したら、支那竹の買い置きが無いということで断られた。いや、それ以前に、注文しようとする私を制して、「悪いから注文しなくてもいいですよ。」と困ったように言われた。

結局、「たんめん」ならできるということで「たんめん」にした。本当は「やなぎ屋主人」の主人公はカツどんを食べるので、その最近来るようになったファンの方々もカツどんを注文するのだ。カツどんを食べることで、その物語に思いを馳せるのであろう。しかし、私は彼らと同じものを注文しては芸が無いと思い、麺類にしてみたのだ。





上の神棚の写真と、オカモチの写真・・・。漫画の中でもかなり正確に描かれている。わずかなカットにも手を抜かない作者ということが分かる。


お婆ちゃんはとても話好きだった。
「昭和41年。いきなり夜、先生が来られたんです。泊まるところが無いということで、長浦駅長が、『よろずや』さんだったら泊めてくれるんじゃないか』ってうちを紹介したようです。当時、この辺りにはまったく旅館なんて無かったですからねえ。」とお婆ちゃん。おいくつくらいなのか想像もつかないが、しっかりした口調で、たんめんが仕上がるまでの間、たいくつしなかった。

お婆ちゃんの記憶が正しいなら、つげ氏が同店を訪れたのが昭和41年だから、作品が発表された昭和45年(1966年)の4年前ということになる。

右上は、厨房の中。私のためだけに仕度を始める若女将。大鍋とか寸胴とかじゃなくて、小さい鍋で作るのがちょっと感動。しかも、マッチで火をつけるタイプのコンロが懐かしい。エネスタさん、余ってるコンロがあったら「ピピッとコンロ」を差し上げて!!

さて、アツアツのたんめんが出来上がって、若女将が物凄くレトロなアルミの盆に載せて運んできてくれた。野菜がたっぷりである。さて、お味は・・・・。

一口、スープをすする。うまいっ!
これぞ、お袋の味。

何がうまいかというと、やはり野菜たっぷりだから、野菜から出てくる野菜のうまみがスープに溶けているのでしょうね。それと、たぶん大目に加えているラー油。それが、ぴりっとする感じがいいのだ。もちろん、このお店の雰囲気の中で食べるからか、なんか、じーんと感動する味になってるのである。




上の左がその、たんめん。レンゲがでかいから対比でそれほどボリューム感が無いかもしれないが、大食漢の私がお腹がちゃんと膨れるので、量的にもそこそこちゃんとしている。右は、年季の入ったテーブルと椅子を横からみた図。いいでしょう?

店を出るときに、お店を宣伝するから、絶対に忙しくなるよ、みたいなことを言ってきた。まあ、そんなに急にお客さんがたくさん増えることは無いだろうけれど、このページをご覧になった方で、「よっしゃ!行ってみよう!」と思われた方、すぐにGOですぞ。場所は、JR長浦駅を山側に降りて、徒歩1分。旧道沿いなのですぐにわかると思う。駅から木更津方向に歩くと、あっけなく到着する。但し、暖簾にはいっさい「よろずや」という名前は書いてない。

おおっ!
Yahoo!のグルメ情報にも掲載されていた!!
千葉県袖ケ浦市蔵波51[ 地図 ]
0438-62-2638




写真左。外観はこんな雰囲気。目立たない。うっかり通りすぎてしまいそう。
写真右は、やや木更津寄りから眺めたところ。左側のビルのような建物は長浦駅の自転車置き場。





時間が余ったので、長浦駅の向こう側の港に行ってみた。大きな風力発電の風車がゆっくりと回転していた。運河には泥にまみれた蟹が這いずりまわっていた。漫画では、主人公が海岸で野良猫と戯れ、それがエンディングとなる。

>>> つげ義春オフィシャルサイト

2007/6/5
しばざ記 250

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