「俺たち2」管理人による遠距離通勤電車マガジン

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毎度のことながら、くだらない話題です m(__)m
回転寿司の功罪

回転寿司と私の出会い(それほど大げさか)は、19歳の時だった。当時、新宿でバイトしていたのだが、同い年の先輩に連れていってもらったのが最初。全国にチェーン店がある「元禄寿司」だった。さくら通りに面した間口が狭い店構えで、細長い楕円を描いて寿司がくるくる回っていた。値段はオール100円、但し、ウニ、いくら、甘えびは300円くらいだったと思う。

それまで回転寿司の存在を知らなかった私は思い切り興奮していた。寿司が安く食べられるというよりも、回転するマシンの魅力に惹かれたからだ。凄い、寿司が回っている。もちろん、それまでの寿司というのは、滅多に行かないカウンターの中に頑固そうなおやじがいて、注文するいわゆる普通の寿司屋か、お客さんが来たときにご相伴に預かれる出前だけだった。

回転寿司はたちまち巷のブームになったが、私にとっても月に一回くらいの定期的なイベントになっていた。なんせ、普通の寿司に比べたら安いものの、ちょうどがんがん食べてしまう年ごろだったので、そんなにしょっちゅう行けるものではなかった。しかし、19歳の私にとって、それまで親に食べさせてもらう以外になかった寿司を身近にしてくれた。

それから暫くしてから私が下宿していた阿佐ケ谷にも元禄寿司が出来た。元禄寿司は瞬く間にあっちこっちの主要な駅近辺に進出していたようだ。同時に元禄寿司チェーンの他にもいろいろ出来てきた。阿佐ケ谷のお隣には、桃太郎寿司が出来た。元禄寿司よりも高級感が漂っていたし、寿司そのものも、美味しかったように感じたので、回転寿司に行く時はわざわざ一駅歩いた。

寿司業界(といっていいのかどうか)の中心はどんどん回転寿司に移行していった。郊外に回転寿司の大型店が続々登場する。一方、バブル崩壊以前には本物の寿司が食べられる老舗の寿司店も流行った。グルメ番組の人気によるものと思われる。即ち、寿司は安い回転寿司か、高級指向の昔ながらの店かに大別された。ところが、バブル崩壊後、一気に不景気に陥ると、回転寿司陣営が圧倒的に有利となる。

平成生まれの私の息子は折り詰めの寿司か回転寿司のどちらかでしか、寿司を食べたことがなく、カウンターに座って注文する方式の昔ながらの寿司屋の体験が無い。寿司といえば回転しているやつ、というイメージしか持っていないのは寂しい。そろそろ一度くらいはちゃんとした寿司屋に連れていってやりたいが、我が家の経済状況では難しい。

だが、回転寿司も2極化している。オール100円の「かっぱ寿司」、「すし音頭」という安さを全面に押し出したタイプと、ものよって100円から600円くらいのバリエーションがある「がってん寿司」、「銚子丸」というやや高級志向の店に分かれてきた。銚子丸はネタも大ぶり、シャリも美味いし、個人経営の寿司屋に負けない味が楽しめる。もちろん、オール100円の寿司屋だって、昔に比べたら格段に味は良くなっている。

さて、タイトルに「回転寿司の功罪」などと大げさなものをぶちかましてしまったので、まとめに入る。回転寿司がポピュラーになったお陰で、寿司そのものが身近になったことは言うまでもない。なんせ、昔の寿司屋はどんぶり勘定でいったいいくら金を持ってゆけばいいのか分からない怖さがあった。財布を気にしながら食べなくてよいというのは、まことに有り難い。皿の数でだいたいの目安が分かる。

しかし、風情があり、板さん(寿司職人)との会話が楽しめるいわゆる昔ながらの寿司屋とはすっかり疎遠になってしまった。以前なら社用族もたむろしていた寿司屋がお金持ちだけの対象になってしまった。更にこう不況が続くと、お金持ちも少なくなり、寿司屋もある程度の方向転換を迫られる。本来なら、高級感を演出していた店がいつの間にか安いランチセットなどに力を入れ始める。

私は詳しくないので、良く分からないが、苦節十年などと言われる寿司職人が今後どんどん減ってくるのではないか、という心配もある。苦労に苦労を重ねてやっと一人前になったのはいいけど、昔ながらの方式では客は来ない。それよりも、研修2、3カ月でカウンターの向こうに立つ回転寿司の板さんのほうが金になりそうだ。なかには機械がどんどんシャリを握り、あとはネタを乗せるだけ、という回転寿司屋もあるくらいだから、専門の技術をそれほど必要としない。

個人経営のお店は、是非とも頑張ってもらい、しっかり昔ながらの文化を継承してほしい。寿司屋イコール、全てが回転寿司になったら寂しい。回転寿司と競合する為には、高いお金を払って余りある味をもっともっと生かしてほしいのだ。つまり、味の格差をどどーんと出してほしい。そうすれば、月に2回は回転寿司、でも1回はちゃんとした寿司屋に行きたいね、ということになってくると思う。

だが、回転寿司とてこの長引く不況、どう生き残るかまったく予断を許さない。100円ショップが興隆を極め、牛どんが280円の時代、給料だけが高いということは有り得ない。どんどん庶民の財布が軽くなっている中、外食産業全体に大きな試練が押し寄せている。まあしかし、あらゆる業種にそれは言えることなので、とにかくこの不景気が吹き飛んでくれることを切に願いつつ、このコラムを終えようと思う。

いや、実は腹が減ってきたのだ。うーむ、急に寿司が食いたくなった。よし、今夜は奮発して回転寿司でも行くかっ!(苦笑)

2003/7/8

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しばざ記 Vol.37


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