俺達のコラム

 このページは、ベイタウン在住の翻訳家でもあり、シャンソン歌手でもあるPretty Ladyさんが執筆した「ときめき」というタイトルのメールを集めたものです。


ときめき(その18) 「人生という財産」

圧巻だった。前に座っていらした初老の紳士、目頭を押さえていましたよ。今度は絶対友達を連れてきます、絶対聴かせてあげたい。イメージが沸くのよね、あなたの歌を聴いていると。

満員御礼の3月のライブには大勢の人が応援に来てくれた。かつて元町で歌っていた時に初めて聴きに来られた方が「これから毎回来ます」と言われて、新宿の店に移ってからも来ている。今度は旦那さんをつれて。旦那さんもいつも来る常連になった。その他の人たちは一人を残して皆始めて私の歌を聴く人ばかり。新国立劇場でモーツアルトのゴディ・ファン・トウテに大きな役で出演しているスイス人の Rudyも。中には、六本木に新しくできたライブハウスを通りがけに覗いた時に、隣に居合わせた人も来ていた。

新宿に移って確かに何かが変わり始めている。元町の店を後にする時、そこのママが私に言葉のプレゼントをくれた。「いつかは貴女をここから出さなければいけないと思っていたの。貴女のような"知的で人の心を打つような歌を歌える人” (すんまへン、私もよくこんなことを書けるものだわ)は先に行かなければダメよ。時々貴女はステージに立つと"無"になるときがあるの。その時のあなたの歌で、あなたはステージにいるから聞こえないでしょうけれど、お客の中から”ため息”が漏れているのよ。。。。。それから気をつけてね。長いことシャンソンをやっている人から様々な圧力がかかるかもしれないけれど、うまくやりなさいよ」

新宿の店、QUIで歌った初日、ここの常連のような感じの人が、ファースト・ステージが終わった後の休憩時間にこちらを睨みつけている。ナンやら、怖い顔して張るな、この人。気にいらんのかしら。ちょっとお愛想言っておこ。「こんにちわ」。。。少し笑ってくれたわ。ほっ。。。。しかしすぐ真剣な眼差しで、「どこで歌っているの?」。。。

それからこの紳士、2月のステージは私の歌の番に間に合うように、走って入ってきた。

私が歌っている傍でお客がマスターにささやき声で話しているのがわずかに聞こえる。「上手いね、この子(子?)」

人はそう見てくれているんだ。人が私の歌で涙を流したり、心を震わしたりするんだ。。。かつて我が家の亭主が「僕は静が僕の奥さんだから言うんじゃないんだよ。僕は静の歌が聴きたいンだよ」と言っていたことがあった。一笑した言葉だったけれど。。。。私の歌は変わった。それは自分でもそうだろうと思う。7年ほども前になるだろうか、当時住んでいるマンションの建築賞受賞記念で歌った時に私の歌を聴いたことのある隣人が「貴女、こんなにうまい人だったのね!びっくりよ!すっごくうまい!」と目を丸くしている。確かに歌のいろいろなことが分かり始めた。これも「冬ソナ」を見た時の感動から始まった。

怖く無くなって来たように思う(歌詞を忘れること意外は)。それは上手く歌おうとしなくなったからだと思う。言葉を生きることだけを考えているから。でも人の感動を招いたと聞かされると、どうしてもその成功をなぞってします。なぞって録音した自分の歌は”嘘”だらけ。気がつきながらも、そこからなかなか抜け出せない。 そういう時は、潔く、よっしゃ、この歌は次回や。。。。こんな取り組み方が、あの元町のママには"無"の境地にいるように解釈されたんだろうなぁ。

こんな姿勢で歌い始めて、私には大きな財産ができた。「人」。歌でギャラはもらっても歌のための出費の方がはるかに大きい。でも代わりに「人という財産」ができた。高校時代の友人達が集まり私の歌を聴く事が彼らの"ときめき”になったようだ。さも無くば一緒に集まることがほとんど無い彼らだ。それ以外にも、これまでなかなか直に会うことのなかった人たちが、私の歌を聴きに集まってくれる。これまで互いに全く見たことも無い人達が、私の歌を聴く場所で知り合いになる。

初めてある有名歌手のライブで隣り合わせになった人に、もっと良い歌を聴かせたくて差し出した名刺。それを頼りに来た彼女は、次回の私の出演をしっかと携帯電話のスケジュール表に入力して帰った。「あなたの歌のファンになりました」

「幸せな時間をありがとう」「素晴らしい時間をありがとう」と、びっくりするような事を言ってくれる。あのRudyが「絶対歌い続けて。君の歌には伝えるものがある。君の深い声はとても魅力だ。ものすごい説得力のある歌だ」と言い残して、次の日の公演に備えてあくびをしながら帰っていった。

私の歌で、人が集まる、人が幸せになる・・・・そうなんだ・・・

多くの人たちに私の歌を聴いてもらいたいと思い始めた。私の歌がどれほどの事を出来るか分からないけれど、それで幸せな瞬間、心が浄化される瞬間をつくるお手伝いをしよう。。。。

通訳の仕事はいくらでも私に代わる人がいる。でも私が歌う歌は、私にしかできない。神様はこんな役割を私にくれたのだ。おかしい、不思議。かつてミュージカルをやろうと志していた頃、一番ネックだったのが歌だった。それなのに、今「歌」だけが残された。何処までいけるかな。。。精神的に倒れるまで行ってみようか。ははは・・・

さあ、忙しくなったぞ。もう4月。次のライブまでまだ4週間あるけれど、メニューを考えなければ。小椋桂の元バンドマスターが私の歌う「リリーマレーン」をアレンジしてくれる。どう出来上がるか、楽しみ。ギターをたっぷり入れてもらおう。

Pretty Lady (2005/4/2)



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