小説 全日本すけべ選手権
zaki

さあ、全国1000万人のスケベな皆さん、こんにちは!
ここ会場の幕張メッセで開催の全国すけべ選手権の最終日、いよいよ決勝戦を実況いたします。司会は、自らをプラトニックなスケベ人間と呼ぶ、私、遠山珍、人呼んで「遠山の珍さん」です。
解説は「スケベの為なら女房も泣かす」でお馴染みの吹雪山純一さんです。
吹雪山さん、どうぞよろしくお願いします。

「はいはい、よろしくです。」

今日もまた凄い闘いが期待されますね。

「その通りです。ここまで来るのに激しい闘いを経て決勝に残ったわけですから、双方ともかなりの使い手です。おそらく息を飲む壮絶な試合になる筈ですね。」

はい、有難うございます。そうしている間にも刻一刻とゴングが近づいているわけですが、その前に簡単にルールのほうを説明したいと思います。
簡単に申し上げれば、対戦するどちらがよりスケベなことを言うかということなのですけど、直接的に猥褻な言葉を吐くのは反則です。その度合いにより、イエローカードやレッドカードが出され、減点されるのです。レッドカードの場合は即刻退場です。このルールについて吹雪山さん、なにか補足はありますか?

「そうですねえ。いかに遠回しに淫美な言葉を言うかというところがポイントですね。苦し紛れについ放送禁止用語を使い反則負けになってしまっては単なる変態ですからね。その後の社会的な立場も危うくなりますし、第一、小さいお子さまもこのテレビを観てますので、それだけはやめてもらいたいですね。」

その辺り、出場する選手層も厚くなってますので、是非きちんとした心構えが必要ですよね。単にボキャブラリーの豊富さだけではなく、いかに美しくスケベになれるかの勝負ですから、もう一度ルールを確認してほしいです。
おっと、そうこう言ってる間にファンファーレが高々と鳴り響き、選手の入場です。まずは、昨年は一回戦で悔し涙を飲み、ひたすら再起を賭けた23才の美女、黒木馨の入場です。しなやかな足取り、ファッションモデルを彷彿させます。黒いぴったりしたドレス。今年は全て一本勝ちで決勝に進出です。対するのは昨年の覇者で今年も決勝に残り2連覇を目指す大木権座、34才。一見普通のサラリーマン。しかし、うちに秘めた闘志は並々ならない。おっと、大木、堂々とした足取り、両者中央のテーブルを挟んで座りました。

「息を飲みますねえ。」

はい。今、審判から説明を受けているところです。
それにしても吹雪山さん、黒木の検討ぶりには驚きますよね。昨年どうして一回戦落ちしたのか分かりません。

「確か、反則負けでしたよ。いい素質を持ちながら、つい禁句を口走ってしまったわけです。しかし、今年は絶対に禁句が言えないくらい、日常的で健全な言葉だけを使ったいやらしい表現をたくさん考え、実践的なトレーニングを積んでいるはずですから。」

それは楽しみですね。一方、大木のほうはさすがに前回のチャンピョンらしく正々堂々と闘っていますね。決勝までの5戦は黒木と同様、全て一本勝ちで決めています。

「大木の日頃からの鍛練には脱帽します。今や、ご近所ばかりか、日本中からスケベ野郎と言われてるくらいです。それでも、日本一のスケベという称号に甘んずることなく、地道な努力を重ねているようです。幕張に来るとき、東京駅の京葉線ホームでは、盛んに声援が飛んでましたよ。」

なんせチャンピョンですからねえ。その心構えたるや相当なものでしょう。さて、ステージではボディチェックが始まりました。おっと、さっそく審判が出て協議を始めましたねえ。こ、これはいったいどうしたことでしょう。

「おそらく黒木のコスチュームに問題があるのでしょう。」

うーん、そうなのですかねえ。黒木馨の黒いドレスが・・・。おっと!な、なんと主審が黒木に注意を与えた。吹雪山さん、これは予想だにしなかったことですね。

「はい。たぶん、スカートの丈が短かったのでしょう。立っているときには分からなくとも、椅子に座ると、多少スカートがめくりあがりますからねえ。ぎりぎりのラインですね。しかも、黒木は網タイツを履いている。相乗効果で余計に危ないと判断されたのでしょう。」

なるほど。そういうことですか。規定に触れたわけですね。さあ、審判団が指示をして、係の者が膝掛けを持ってきました。これは痛いですねえ。減点1ですからねえ。もっとも、試合が始まって、うっかり下着が見えてしまったら即刻退場ですから、却ってよかったのかもしれません。

「いや、ひょっとしてこれは黒木の作戦かもしれません。ほら、チャンピョンの大木が心無しか動揺しています。」

作戦ですか。それにしても、いきなりの減点が言い渡された黒木。それでも動じることなく、淡々と座っております。片や落ち着きが無くなっている大木。それが試合でどのように響くのか。おーっと、今、ゴングが鳴り、試合開始です。吹雪山さん、興奮しますね。

黒木:「はじめまして。大木さんって、素敵なお人ですね。」

出ましたっ!ゴング直後、いきなり黒木の繰り出すジャブ!しかしこれはいったい何を意味するのか。どう考えても社交辞令にしか過ぎません。何かスケベな要素を含んでいるのか、それとも・・・。しかし、対する大木、先ほどの動揺がまだ収まらず挙動不審です。んー、持ち時間はまだ十分あるのですが、どうしたことでしょう。このくらいで怯む大木とは思えないのですが。い、いや、それとも、深く考え過ぎて無理矢理エロティックな意味合いに解釈してしまったのか!

「いや、十分効いてますよ。遠いところから入ってくる。これが黒木の常套手段です。相手は遠山アナのおっしゃるように意味合いを考え過ぎてしまうわけです。」

そうですか。おっと、審判が大木に寄っていった。これは大木、相当苦しい。黒木に「効果」が与えられそうです。い、いや、副審が左右の旗を交互に振り取り消しをしています。どうなんでしょうね。

「おそらく試合前のダメージによるものと審判は判断したんでしょうね。」

大木:「コマネチっ!」

おっと、大木、苦し紛れに一言。これはどうか。吹雪山さん、これはまったく意外な展開になりましたね。大木にしてはありきたりですか?

「いや、まだ序盤ですからね。大木としてはここでペースを掴んでおきたいところです。」

黒木:「お食事にします?それとも、お風呂になさいますか?」
大木:「布団を敷いておけ!」

これはどうでしょう。

「いいですよ。両者とも。」

黒木:「さすがですわ。」
大木:「えろえろあるでよ。」
黒木:「カムチャッカ半島。」
大木:「ボボ・ブラジル」

おっと、激しい撃ち合いが始まったぁー。それにしても両者一歩も譲らず。

黒木:「○△□×△」

ん?ピー音が鳴りました。おっと、審判が近寄って確認をしております。どうなんでしょうか。おおお、審判がイエローカードを出しましたねえ。おそらく猥褻な語句、それに準ずる語句だったようです。これは痛い、黒木、苦戦を強いられてます。

「いやいや、ヒヤヒヤしましたな。へたを打つと退場ですからねえ。」

黒木、すれすれのところでイエローです。

大木:「□△○したい。」

またまた、ピー音です。今度は大木に出てしまいました。吹雪山さん、これはいけませんねえ。大木としては一本取りに行ったのでしょうが、挑発に乗ってはいけません。おーっと、大木にもイエローカードがっ!これはまた意外っ!

黒木:「死ぬ〜。」

おっと、黒木、これは準決勝でも使っていた技です。大木、よく持ちこたえた。い、いや、審判が駆け寄りチェックをしています。心拍数、血圧のチェックも始めました。大木、上気したような顔色ですね。

「効いてますよ。これ。」

おーーーっと!「有効」です。審判が黒木の「有効」を取りました。どうしたのでしょう。落ち着き払っていた大木ですが、結構効いている様子です。息遣いの荒さもここ実況放送席にも伝わってきております。吹雪山さん、これはいったいどうしたことでしょう。

「自ら使った反則すれすれの淫らな言葉にも反応してますね。準決勝までイエローを貰ったことが無かったのに黒木の挑発に乗ってしまった。その直後ですからね。あれはプロでもキツイ。ひーっ。」

ひーっと言うのはまさか、吹雪山さんにも効いているということですね。これは凄い!!!黒木、昨年の覇者を圧倒しております。

大木:「いてもたろうか。」

ぴぴーっ!これはいけません。脅しです。大木、イエローか。い、いや、辛うじてセーフです。大木、後がありません。

「危ないですね。大木は十分警戒したほうがいいですね。かなりのダメージを受けてますから、ここは冷静になって体勢を整えたほうがいいでしょう。」

場内は騒然としています。「いてもたろか。」という言葉に対して、何故審判はイエローを出さないのかという抗議の声ですね。

「それもあるのでしょうが、準決勝まで順調に、しかも洗練された日本古来のエロティックさを披露していたチャンピョンが、あまりにも狼狽し、汚い言葉を吐いたことによる驚きもあるのでしょうね。」

さあ、この辺り、どう試合が動いてゆくのか。吹雪山さん、まるで巌流島の決闘みたいですね。

「あ、それ、それです。それは私が言おうとしていたのですが、忘れてました。」

吹雪山さん、それはないですよ。因みに宮本亜門ではなく、宮本武蔵ですからね。念の為。お、お静かに。黒木が何か言おうとしております!

「お静かにったって、あんたがうるさいじゃないの!」

黒木:「背中のホックのところが痒い。」

んー、どうでしょう。微妙なところを持ってきましたねえ。しかし、大木、踏ん張った。

大木:「さかさクラゲ」

おおっ!今度は黒木が反応したっ!い、いや、審判団は動こうとしないですね。吹雪山さん、これはどうしたことでしょうか。

「たぶん、意味がまったく分かってないのだと思います。一瞬、なんのことだろうと耳をそばだてる仕種ですね。全然OKですよ。」

いや、実は私もなんのことか分からないのですが・・・。

「さかさクラゲ、つまりクラゲが逆立ちすると温泉マークってことで、こりゃ、かなり古い言い回しです。昭和40年代に既に成人していた方にはお馴染みのフレーズですが。」

すると当時は、女の子くどく時に、「さかさクラゲに行かない?」なんて表現していたのですかねえ。

「いやいや、それはありませんね。オヤジ同士の会話や、エロ漫画だけの世界です。」

エロ漫画って、そんな昔からあったのですか?おおっと、黒木がモーションに入った!

黒木:「しんぼうたまらん。」

んっ!?なんですか?ちょっと聞き漏らしてしまいました。え?「しんぼうたまらん。」と言ったのですね。んー、なかなか凄いところを出してきました。これは解釈によっては相当なスケベですよね。が、冷静さを持っていれば、問題無く流せるはず。おお、大木が苦しんでます。これはどうか。黒木の吐いた言葉に反応しております。

「黒木ほどの美貌の持ち主が、あんなにエゲツナイ言葉を使った、というのがたまらんのでしょうな。あ、私もたまりません。」

お、またまた審判が駆け寄ります。大木、持ちこたえることが出来るか。おおっと、大木が悶絶しております。

「どうも、この辺りが勝負どころでしょうね。黒木は余裕です。」

おおおおおおおおーーーーーっっとぉぉぉぉぉぉーーっ!審判は試合を止めました。これはどうしたことなんでしょう。大木、ぐったりしてます。おや?大木、鼻の下が赤い。おお、鼻血が出ていますか?

「間違いなく鼻血ですね。」

やややや。審判が全員黒木の旗を上げました。一本勝ちです。正確に言えば、大木のテクニカルノックアウト負け。大木、鼻血を出してしまいました。なんということでしょう。最後の最後に大波乱。黒木、昨年のチャンピョンを破り、見事優勝です。やりました。やりました。黒木、全日本すけべ選手権の初優勝です。しかも、女性です。ミス・スケベ。やりました。やりました。黒木馨、栄光を掴みました。

「これはもう見事というしかないですね。」

吹雪山さん、やりましたねえ。それにしても快挙。まったく素晴らしい。おや、お父さんでしょうか?ステージに小太りの中年男が上がって黒木に抱きつきました。

「素晴らしいですね。親御さんもさぞや大喜びでしょう。」

おーっと!吹雪山さん、こ、こ、これは・・・。

「どうやらオヤジさんではなくて、単なる痴漢のようですね。」

いきなり飛び出してきて黒木に抱きついた中年男は実は暴漢、いや、チカンだったようです。今、警備の人間につまみ出されようとしております。場内から一斉に「ヘンタイ、引っ込め」の大合唱です。吹雪山さん、油断もスキもあったもんじゃないですねえ。それにしても、黒木、堂々の勝利。おっと、ここで本物のお父さんからのコメントが入ってきました。読み上げます。ん?いや、これはまた凄いスケベ。ちょっと私も読むのに抵抗があります。

「どれどれ。おっ!確かにこれは凄い。この私も赤面しそうです。親も親なら、娘も娘といった感じですね。」

それを言うなら「蛙の子は蛙」じゃないですか!?ま、どっちでもいいのですが、時間になりましたので、ここ幕張メッセからの実況放送を終了いたします。全日本すけべ選手権、解説は「スケベの為なら女房も泣かす」の吹雪山純一さんと、実況は「遠山の珍さん」こと遠山珍でお送りしました。次週のこの時間の放送は、「いったい誰が父親だ!?」をお送りします。それでは皆さんごきげんよう!

(C) 2004/4/10 Oretachi Jp

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