ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第13話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン


ちゃんと写真が撮れるようにしたいのですが・・・

ザク:博士、あけましておめでとうございます。
ゲソ:おめでとう、ザクソン君。あんまりめでたくもないがな。
ザク:どうしちゃったんですか、正月早々。
ゲソ:毎年大晦日恒例の年越し麻雀大会に敗北してな、それほどの負けじゃなかったのだが、金銭的に苦しくて。あ、そうだ。君、私におとし玉をくれ。
ザク:なにを言ってるんですか。些少ならお貸しできますけど。
ゲソ:じゃ、貸してくれ。今すぐ。
ザク:やぁだなあ、困ったもんですね。
ゲソ:君が困ってどうする。私が困っているのだ。正月からいきなり金欠病じゃ、家賃が払えないし、メシも食えない。
ザク:そうなのですか?いっそ、もう麻雀やめたら?
ゲソ:ばかもん!何を抜かす。いいから早く金を出せ!私だってうまいもんが食いたい。
ザク:はい、はい。じゃあ、3千円ということで。
ゲソ:こらっ!今、1万円が見えたぞ。そっちを出せ。
ザク:なんか強盗に遭ったようです。でも、絶対に返してくださいよ。私もそれが無いと正月が過ごせない。お願いします。
ゲソ:けっ!みみっちい男よなあ。私が10倍にも20倍にもして返してやる。とにかく安心しろ。さ、本題に行くか。正月早々研究所をOPENしたのだ。なにか重大な研究テーマでも持ってきたのだな?
ザク:はい、需要なテーマというのではないかもしれないのですが。実は、写真のことで。どうもいい写真が撮れないのです。せっかくの正月休みなので家族とスキーに行ったのですがね、ゲレンデで撮った記念写真がうまく映ってないのですよ。息子のスナップショットも失敗してるし。いい思い出はいい写真で残しておきたいのですけどね。ちょっとがっかりでした。
ゲソ:君は人が飲まず食わずで戦っているときに、スキー三昧か。けっ!優雅なもんだ。
ザク:闘うって麻雀でしょう?その話はヤメましょうよ。以前、たっぷりとお聞かせ頂いたじゃないですか。
ゲソ:あんなもんじゃ済まされない。しかし、写真は私の趣味でもあるから特別に教えてやろう。まずは写真の原理からだ。

写真って何だ?
ザク:
おっと、いきなり科学に入りましたね。
ゲソ:なにがおっとだ。じゃなくて、おまえさんは写真はどうして写るのか知ってるかね。
ザク:はい。感光剤が光に変化するのですよね。
ゲソ:さよう。また小学生でも分かる質問をしてしまったな。要するにそういうことだ。だから、何も写真機が無くてもピンホール写真だって綺麗に写る。感光剤は瞬間で光を感じとってしまうから、普通は露光の調整をするのだな。それが写真機なわけだ。
ザク:シャッターも無く、ピント合わせもしなくても写るのですから、ピンホール写真って凄いですよね。
ゲソ:まあな。ピンホール写真のマニアもいてな、これが結構綺麗なんだよ。
ザク:それは私も聞いたことがあります。
ゲソ:さて、先ほど君が言ったようにカメラには露光を決める2つの機能がある。なんだね?
ザク:はい。シャッタースピードと絞りですね。
ゲソ:その通り。簡単なカメラだと、どっちかが固定になっているものも多い。中にはまったくその機能が無いものもある。例えば使い捨てカメラは固定焦点だし、シャッタースピードも絞りも変えられない。だから殆どがデイライトタイプだな。
ザク:デイライトってなんですか?
ゲソ:文字通り日中の屋外という条件下の明るさってことだな。一般的には晴天という意味だ。日中の晴れた外で撮ると最高の画質が得られる。曇りの屋外でもまあ撮れるが、適してないからぼやーっとしたものになる。ただ、明るい曇りは晴天よりもうまく撮れることも多い。これはゆくゆく教えよう。
ザク:室内では駄目ですね。
ゲソ:ストロボが付いているのもあるから、駄目ではないがな。やはり、どうしてカメラが無い時の予備としてしか使わないほうが良い。それから、君、絞りは露光を調整するだけではないのを知っているかね?
ザク:えーと、何でしたっけ?
ゲソ:絞る。いわゆる、光の入る間口を狭くしてやるとだな、ピントの会う範囲が大きくなる。逆に開いてゆくと、ピントの合う範囲が狭くなる。
ザク:それは知りませんでした。でも、どういうことなんでしょう。
ゲソ:例えばだ、君が私の顔を撮影する。意識しないでシャッターを押せば、カメラのオート機能が働いて、勝手にシャッタースピードと絞りが決まって、まあ、そこそこの写真は撮れる。だがな、マニュアルのカメラや半マニュアルのカメラなら、絞りを意図的に変えて、自分の好みの写真が撮れるのだ。具体的に言えば、背景がうるさくってしょうがない場合、絞りを開けてやる。そうすれば、背景には全くピントが合わないので、狙ったところだけくっきり、あとはボケボケの写真が撮れるのだ。人物の写真などに適しているな。もっとも、絞りを開放することによって、シャッタースピードが速くなる。これ当たり前だな。露光は絞りの値とシャッタースピードのに相関関係があるわけだ。
ザク:背景をくっきりさせたい時は、逆に絞るのですね。
ゲソ:その通り。風景を撮影する時に、全部はっきりと写したい時など、あるいは、大勢で写真を撮る時にはそうしたほうがいいな。だが、風景を撮る時にも手前にピンを合わせ背景を殺すといい写真になる場合がある。絞りはそのように効果的に使うのだ。
ザク:私のカメラはいわゆるバカチョンなので、完全にオートですから、そういうことは出来ないわけですね。
ゲソ:完全に出来ないかというとそうじゃないのだがな。まあ、良かろう。続いてピントのことだが、正確に言えば焦点距離を合わせるという。焦点てのはなんだ?
ザク:はい、虫眼鏡で太陽の光を集めて紙を焦がしたことがありますが、あれですね。
ゲソ:そうだ。文字通りだな。焦げる点だから焦点。レンズから入った光が調度1個所に集まる点のことだ。だが、実際には集まってしまったらフィルムには点しか写らなんだろう。だからレンズからフィルムに光と受ける距離は、交点がまた徐々に開いて、ちょうどフィルムのサイズになるところに設定されているのだ。
ザク:なるほど。それはレンズによって異なるのですよね。
ゲソ:そう。焦点距離が短ければ、広い範囲が写る広角、逆に長いものが望遠だ。広角から望遠まで焦点距離を変化させられるのをズームレンズと言っている。ところで、ここでも実はピントが合う範囲の大小ということが関連してくる。
ザク:絞りとは別ですね。
ゲソ:それとは違う。広角のほうがピントの合う範囲が大きい。望遠になるほどピントの合う範囲が狭い。これをうまく使って、先ほどの絞りの話と同様に効果的な写真が撮れるわけだ。意図的にではなくても、望遠で誰かの顔を撮るとする。そうすると、背景もまた手前もぼやっとする。余計なものをぼやかすことで、写真にメリハリが出るわけだ。
ザク:ふむふむ。
ゲソ:このピントの合う範囲を別の言葉に直すとな、被写界深度というのだ。これは特に覚えなくともいいがな。さてっと、それで君の問題、確かスキー場で写真がうまく撮れなかったと言ったな。
ザク:はい。そうなんですよ。
ゲソ:真っ暗になってしまったとか、そういう感じかな。
ザク:そうなんです。よく分かりますね。
ゲソ:スキー場での撮影のミスというのはたいていそんなところが多いのだ。AI機能が付いている奴などではそういうことも計算して撮ってくれるから問題無いのだがな。
おそらく君のカメラはバカだから賢いプログラムが入っておらんのだろ。
ザク:バカだからはキツイですね。なんか私が言われているみたいで。
ゲソ:さっき自分でバカチョンと言ったじゃなか。
ザク:誰でも簡単に写せるという意味のバカチョンなんです!
ゲソ:まあいい。バカチョンでも簡単にちゃんと写すこつがあるので教えよう。ストロボを使うのだ。
ザク:ストロボですか?あんなに明るいのに。
ゲソ:そう。明るいからストロボを使うのだ。君のカメラでも強制発光は可能だろ?

ストロボは夜にしか使わないのではない!!
ザク:なんですか?強制的にストロボを発光するのですか?ストロボって暗いところで自動的に発光するもんじゃないのですか?
ゲソ:自動発光しないから強制的に発光させるのだ。
ザク:よく分からないですね。
ゲソ:逆光の時に自動で発光するものも多いぞ。ストロボは何も夜だけしか使わないのではない。ザクソン君、君は逆光の写真を撮る時にはどうする?
ザク:逆光では写真が綺麗じゃないので、極力撮らないことにしてます。
ゲソ:それも手だな。しかし、どうしても撮らなきゃならん時には?
ザク:そうですねえ。そんな時あったっけ。まあ、どうしてもという時には、絞りを調整しますね。
ゲソ:絞りというか、シャッタースピードもそうだが、露光を調整するのだな。オートマティックのカメラなら自動で露光補正をしてくれる。さて、どっちに調整するのかな。
ザク:逆光だと順光よりも当然ながら光の流量が多いのですよね。そりゃ、絞りますよね。ということは、露光を少なく調整するということかな。
ゲソ:素人だから大目に見るが、本気でそう言ってるのか?実は逆だ。
ザク:まじですか?おっと、若ぶってしまいました。
ゲソ:逆光は確かに光量が多い。それは平均露光の場合だ。平均露光はレンズに入ってくる全ての光の平均値だ。逆光の時や、晴れた日のスキー場ならこの数値は大きくなる。ところがだ、被写体はというと、陰の部分なのだな。被写体、つまり君が写そうと思っている人物は太陽を背負っている。すなわち、カメラに向いているところは陰なんだ。だから、露出をアップさせるわけだ。
ザク:なるほど。なんとなく分かります。
ゲソ:ピンスポットで測光する場合には被写体を計測する。しかし、フレーム全体の平均露光しか測れない機種ではハイライト部分とシャドウ部分の明るさの差を見て絞りを開けてやるわけだ。
ザク:それは感ですか?
ゲソ:そう。経験だな。良く晴れた日は、コントラストが強い。逆に曇りの日は弱い。明るい部分と陰の部分の差を考えて絞りやシャッタースピードの目盛りを上下させるのだ。簡単なのは例えば被写体が3mくらいの距離にあれば、ストロボの強制発光で済む。
ザク:今日の講義は今までで一番タメになりますねえ。
ゲソ:こらっ!そういう言い方はないだろ。バカタレが。
ザク:失礼。でも博士、やはり難しさが伴うなら逆光の撮影はやめておいたほうがいいですよね。
ゲソ:いや、大いにやりたまえ。逆光には順光には無い質感が得られる。順光だとのぺっとした感じになってしまうのだがな、逆光だと空気まで写る。
ザク:空気まで?
ゲソ:そう空気だ。太陽に向かってファインダーを覗いてみろ。おっと、太陽をアングルに入れてはいかんぞ。するとな、光が空気に拡散していい感じなのだ。
ザク:イメージ出来ませんが。
ゲソ:例えばな。杉林から漏れてくる斜めの光、あるいは雲の切れ間から海に降り注ぐ光線だな。朝夕にははっきりと空気が写る。
ザク:あんな感じなのですか?
ゲソ:あるいはな。スタジオ撮影などでは、モデルの背後から強烈な光を当てる。そしてモデルに適量のストロボを焚く。するとどうなると思う?
ザク:どうなるんでしょうねえ。
ゲソ:まったく君は創造力が無いなあ。なんというか、輪郭が自然な感じで切り抜かれたようになるのだ。光の輪郭になるのだな。その輪郭には確実に空気が写る。
ザク:そうなんですかねえ。
ゲソ:そうとも。それからな、逆光撮影でわざと平均露光で写す、いや、若干露光アンダーで写すとどうなると思う?
ザク:じゃあ、真っ黒になってしまう、ということですか?
ゲソ:そう。被写体がシルエットになるのだ。これも計算して狙うとまたまた良い効果が得られる。夕焼けの撮影などにはこの方式を使うといいぞ。もちろん、被写体をくっきり浮かび上がらせたい時にはストロボを一発照射すりゃよいのだ。
ザク:やはり難しいですね。実際に撮ってみないと感じが掴めないなあ。
ゲソ:そりゃそうじゃ。だがな、良い写真を撮ろうと思ったら、最低でもそういうことは理解しとらんとな。

良い写真とは?
ザク:いやあ、しかし、どうも有難うございました。これで次回から失敗しないで良い写真が撮れそうです。
ゲソ:ちょっと待った。良い写真と言ったな。
ザク:はい。
ゲソ:ばかもん。私が教えたのはだな。マトモに写るという技術論だけだ。良い写真か悪い写真かは感性で決まる。
ザク:感性ですか?科学者としてはまたずいぶん曖昧な言葉をお使いになるのですね。
ゲソ:曖昧だと?こらっ!ひょっとして曖昧を愚弄しているのではないだろうな。君は大きな勘違いをしている。1か2か、白か黒かが科学ではないのだぞ。デジタルが科学でアナログが芸術だとも言うのかね。ファジーやカオスは立派な科学だ。最近はカオスの状態もつきつめれば方程式があるとされている。
ザク:失礼しました。おっしゃるとおりです。しかし、感性は科学なのでしょうか。
ゲソ:広義では科学の分野ではないかもしれん。しかし、森羅万象ありとあらゆるものを科学してみるという「うすらば精神」は芸術も科学の粋なのだ。
ザク:うすらば精神ですか。そんなのありましたっけ?あ、いや、失礼。では、博士、良い写真の定義を教えてください。
ゲソ:うむ。良い写真。即ち、ひとことで言えば、「ぐっと来る写真」かな。
ザク:「ぐっとくる」ですか?例えば、どんな感じですかね。
ゲソ:心を揺さぶる写真だよ。
ザク:例えば?
ゲソ:頭悪いね、君は。写真を見て何も感じないのかね。例えばだよ、君の息子の可愛らしい笑顔がそのまま写っていたら、なにか感じないかね。もっとも私は君の息子はあんまり好きじゃないがね。
ザク:なにか感じないと言われてもねえ。でも、可愛いですよ。博士はどうして嫌いなのですか?
ゲソ:うるさいし、汚いし、頭悪いし。まあ、いいか。自分の息子だったらそんなクソガキでも可愛いもんだろうしな。
ザク:失礼じゃないですか。確かに親馬鹿ですけどね。
ゲソ:そう。要するに親馬鹿なんだよ。その親馬鹿ぶりをまで、写真に込められるか?被写体がいとおしくて、いとおしくて、たまらない、ってなぐらいのい気持ちで撮ってみろ。それが、いい写真だ。
ザク:なるほど、愛情を込めて撮るということですね。
ゲソ:その通りだ。それがあれば、たいていうまく撮れる。カメラに関しての知識よりも、マインドが優先されるのだ。それからな。シャッターチャンスを逃がさないことだ。風景でも、人物の表情でも、その瞬間に最も輝く時がある。それを逃すな。自信が無ければ、何回でもシャッターを切れ。
ザク:アラーキーみたいですね。
ゲソ:そう!彼はいい写真家だ。誰でもそう言う。何故かね。
ザク:マインドですか?
ゲソ:その通り。音楽でも、芝居でも、絵でも、写真でもマインドなんだよ。
ザク:うーん。じゃあ、今までの私はマインドの無い写真ばかり撮ってたのかなあ。
ゲソ:どうだろうな。しかし、君が奥さんを愛していて、こどもを可愛がっていれば、そこに写っているものはとびきり素敵だと思うのだよ。
ザク:博士っ!なんて素晴らしいお言葉を!私は誤解してました。麻雀狂いで酒好きで、女たらしのデマ博士じゃないかと疑うようなことも多々あったのですが、見直しました。いや、惚れ直しました。
ゲソ:あのなあ。君はずいぶんなことを言うなあ。
ザク:し、失礼っ!つい本当のことを、いや、心にも無いことを。
ゲソ:まあいい。まだ正月だからな。大目に見てやろう。
ザク:有難うございます。さて、じゃあ、今のお教えを忘れないうちにまた写真でも撮りに出かけるとするか。いやね、実は今度は熱海あたりの温泉にでも行こうと思っているのですよ。
ゲソ:なにぃ〜っ!スキーの次は温泉か。遊んでばかりいる奴だな。羨ましい。そういう時には私を連れてゆけ。たまには芸者遊びでもしておかんとな。感性が鈍る。
ザク:博士の感性ってそういうところで磨かれているのですね。おみそれしました。
ゲソ:あとな、これもついでに言っておく。被写体にぐっと近づけ。これが一番。背景まで全部入れようとするから弱っちいアングルになるのだ。ぐっと近づけ。それで「ぐっと来る写真」が撮れる。
ザク:重ね重ね有難うございました。
ゲソ:礼を言うくらいなら、なんかくれ。せめて、温泉旅行の土産でもいい。
ザク:分かりました。温泉饅頭を買ってきましょう。
ゲソ:それだけか?地酒とか、かまぼことか、そういうものもあったほうが私は嬉しいぞ。
ザク:厳しいですね。分かりました。買います。
ゲソ:それからな。
ザク:もうそれ以上は駄目です。
ゲソ:だろうな。

2004/1/3 うすらば研究所 Oretachi.jp

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ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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