ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第12話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン


ベイタウンの人って方向音痴が多い?

ザク:「博士。いきなり質問ですが、南ってどっちの方角ですか?」
ゲソ:「なんだね、やぶからぼうに。私は方向音痴じゃないぞ!断っておくがね。」
ザク:「じゃあ、どっちですか?」
ゲソ:「こどもじゃあるまいし。」
ザク:「いいじゃないですか?分かるんだったら早く言ってくださいよ。」
ゲソ:「仕方がない。えーと、あっちかな?」
ザク:「違います。もうちょっと左ですね。」
ゲソ:「こら。だいたい合ってただろうが。」
ザク:「まあいいでしょう。正解ってことで。」
ゲソ:「こら。正解だったら賞品くらい出せ。」
ザク:「そんな。でも博士は優秀ですよ。ベイタウンには意外かもしれないのですが、方向音痴が多いのです。」
ゲソ:「なに?本当か。」
ザク:「本当です。幸い建物に東西南北の表記があるので、それを見れば方角はだいたい分かるんですがね。」
ゲソ:「ふーん。そうなのかねえ。私はおてんとさんが昇ってくるのが東、沈むのが西ってことで、そんなこどもでも分かるようなことをベイタウンの住民が知らないというのは納得しないがね。」
ザク:「そうなんです。冷静に考えれば誰でも分かるんですが、ところがね、違うんですよ。それが。で、どうして方向音痴になるのか分かりますか?」
ゲソ:「なんだね、君は失礼なやつだな。私に謎掛けか。今日は君が講義をタレてしまうというのか。」
ザク:「い、いえ、そんなつもりじゃありません。ちょっとした私の推理です。ほら、博士は推理するのは、科学にとって重要だって日頃から言ってるじゃないですか。」
ゲソ:「まあな。その通りだよ、ザクソン君。仕方が無い、君の推理とやらを聞こうじゃないか。」
ザク:「はい、はい。何故、ベイタウンの住民には方向音痴が多いのか。それはですね。ベイタウンの道路、海岸線、線路が少しずつ方向が異なっていることが原因なのです。」」
ゲソ:「言ってることが分からんな。」
ザク:「プロムナードと京葉線は平行してない、って分かりますよね。」
ゲソ:「うむ。分かるぞ。プロムナードの入り口周辺は線路に比較的近いが私の住む番街はかなり離れてしまうからな。そんなことはどうでもいい。」
ザク:「あ、分かりますか。ただね、どうでも良くなにのですよ。京葉線とプロムナードの位置関係はほぼ扇形に広がっているのです。もちろん、東京方面に向かえば京葉線とプロムナードの延長線は交差します。」
ゲソ:「おい。君っ。私をナメるのもたいがいにしろっ!そんなことベイタウンの人間には常識だろうがっ!私もベイタウンの住民だし、ベイタウン唯一の科学研究所の所長として、それほど愚弄されるというのは例え君でも許せん!」
ザク:「ちょっと待ってください。博士はご存知ですが、意外に頭で分かっていても、その扇形に広がっていることを常に認識している人って少ないのですよ。」
ゲソ:「そんなものかのう。君の推理を続けたまえ。」
ザク:「まず、京葉線を東西に走る路線だと思っている人が多いのです。」
ゲソ:「なに?違うのかね。」
ザク:はい。全般を見るとほぼ東西に走っているのですが、ベイタウンの横を走る京葉線は、終点の蘇我に向かってやや南より、つまり南東の方向へ延びているのです。南船橋辺りはその逆で北西の方向です。」
ゲソ:「なるほどな。つまり、君の言いたいことは京葉線が<南東−北西>に走るということを認識していない、もしくは認識不足の奴がいるということだな。
ザク:「はい。その通りです。つまり、この時点で既に方向の認識を誤っているのです。更に駅を頂点として扇形に広がるプロムナードはほぼ南に延びているのに、京葉線とほぼ平行して走っていると勘違いして、東西に走っていると思っているのです。」
ゲソ:「なるほどな。錯覚だな。じゃあ、海岸線との関係は。」
ザク:「はい。海岸線も微妙な方角のズレがあるんです。地図で見れば分かりますが、<南東−北西>の方向が海岸線です。幕張の浜に立ち、海を眺めると、ほぼ正面に具体的にはもう少し右側になりますが、富士が見えます。あの方向がほぼ西になります。」
ゲソ:「つまり、プロムナードを軸としてベイタウンの道路は縦横の碁盤目になっているものの、周囲の線路や海岸線など方角の基準となりうるものから傾いているので、紛らわしいということだな。」
ザク:「はい。そういうことになります。」
ゲソ:「例えばだ、パティオスの南棟。これは先ほどの話に照らし合わせると実際には南東方向になるわけだ。」
ザク:「はい。さすが博士。頭がいい。やや南寄りの南東ですね。南南東になるのかな。」
ゲソ:「さすがと言われてもな。こんなことで。それにしても今回は君の講義になったわけだ。たいしたテーマではないが、着眼点はいいかもしれないな。」
ザク:「でしょ?この前から不思議で仕方なかったんですよ。ベイタウンに初めて来た人間、つまり私の家に来たお客さんは必ず方向音痴になってるし。いったい何が原因なのかなあ、なんて思っていたのですよ。私の家は南向き、正確に言えばさっきのように南東を向いているのですが、ベランダに出ると海が見えるのですよね。みんな海の方向を指差して「あっちが南でしょ?」と言うのです。たぶん、大雑把な日本地図で見たときには幕張の辺りの陸地から海の方向がほぼ南の方角だ、という固定観念が出来上がっているのでしょうね。」
ゲソ:「分かった、分かった。まあ、そこまで推測すれば十分だ。しかしな、こういうことは簡潔に説明しなきゃ、なんにもならんのだぞ。君の言ってることはほぼ間違いないことだ。だがなもっと簡潔に説明するとだな、東京から幕張はほぼ東方向だ。だから海岸線もほぼ東西にあると思ってしまう。ところがだ。東京湾が船橋辺りと頂点として文字通り湾曲しているので、幕張の辺りの海岸線は実は東西方向ではない、こういくことだな。物事は簡略していい部分は簡略する。きちんと説明しなきゃならんところはきちんとした説得力を持って、真剣に語らなくてはならん。君もまだまだだ。」
ザク:勉強になります。まだまだ修行が足りませんね。
ゲソ:当たり前だ。だから私は博士、君は単なる研究員なのだ。
ザク:そこまで言わなくても。
ゲソ:ははは。気分を悪くするな。もうすぐ2003年も終わってしまう。当研究所も来期に向けて新しい取り組みをせんとな。
ザク:新しいと言うと。
ゲソ:それは内緒。
ザク:ケチっ!
ゲソ:そうだ。ザクソン君、正月には餅を食うかね。
ザク:食べると思いますが。奢ってくれるんでしょうか。
ゲソ:バカタレがっ!誰がご馳走すると言った。そうじゃない。餅を食う時は是非私を呼んでくれと言いたかったのだ。ほら、私は独り者だろう。正月に餅も食べないなんて悲しいじゃないか。ザクソン君、すまんが奥さんに話しておいてくれたまえ。哀れな独り者がお邪魔するんで、熱燗に鍋と餅を用意しておいてくれってな。
ザク:なんか図々しくないですか?
ゲソ:なにぃ。図々しいとはなんだ。そのくらいの投資がなんだ。ただで研究できることをどう思っているのだ。
ザク:分かりました。分かりました。博士をお招きしましょう。まいったな。この調子で来年を迎えるのか。
ゲソ:そうそう。もう今年は読者諸君とはお会いできないかもしれんから、ここで挨拶でもしておくか。
ザク:そうですね。皆さん、来年もどうぞうすらば研究所をよろしくお願いします。
ゲソ:そういうこと。じゃあな。

2003/12/18 うすらば研究所 Oretachi.jp

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ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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