ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第10話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン


改めて進化論について考えてみよう!

ザク:博士、たいへんです!
ゲソ:なんだ、なんだ?挨拶もそこそこに。
ザク:前回の「紅白歌合戦の考察」に対して読者の方からメールがありました。
ゲソ:どうせ苦情のメールかなにかだろ?放っておきたまえ。だからああいうテーマはやりたくなかったんだ。
ザク:いえ、賛同者だと言ってました。
ゲソ:本当か。少しは物分かりの良い人間がいたわけだ。実はな、この前の紅白のテーマのやつの対談後、一般大衆を敵にまわしてしまうような発言をしたのではと、少々後悔していたのだよ。良かった。
ザク:おっと、博士、弱気ですね。一般大衆に媚びない崇高な博士はどこにいったのですか?
ゲソ:私だって人間だよ。多少は弱みも見せるさ。それがまた魅力なわけだ。完璧な人間なんていない。限りなく完璧に近いが、ちょっとだけ欠けている。その辺りがポイントだな。
ザク:はい、はい、分かりました。じゃあ、紅白のメールの件は置いといて。今回のテーマです。
ゲソ:くだらないテーマはこりごりだよ。
ザク:いえ。進化論についてです。
ゲソ:こりゃまたいきなり凄いテーマを持ってきたもんだな。まあいい。少しはアカデミックな香りがしてきたぞ。以前にも言ったが、生物は苦手なので、私が分かる範囲でしかないが、うすらば研究所の権威にかけても良い対談にしよう。君もその辺りを十分に踏まえて臨んでくれたまえ。
ザク:はい、分かりました。ところがですね。このテーマは私がふと疑問に感じたことを論じて頂こうと思ってますので、ひょっとしたらそうアカデミックではないかもしれません。
ゲソ:まあいい。なんでも疑問に感じることは非常に前向きだ。

植物にも思考能力があるのではないか??
ザク:おそれいります。では、語らせて頂きたいのですが、進化する時、環境に応じてだか、その直接の因果関係は分かりませんけど、ある日偶発的なのか、突然変異が起きる。たまたまその種が一番環境に適しているとする。その手の種類が勢力を延ばし、生き残ってゆく。これが進化の過程なのですが・・・。
ゲソ:なんだね、いきなり本題か。そんなありきたりの進化論なんか聞きたくもない。
ザク:すみません。私の疑問というのはありきたりなのかもしれませんが、今お話しした部分が前提なのです。
ゲソ:で?
ザク:はい。とにかく優性種が残る。その時、地球が高温多湿だったら、それに適応した種が勢力を延ばしている。つまりジュラシックパークの映画じゃないけど、かつてシダ類がそこらじゅうに広がり、恐竜が闊歩している。寒くなると、恐竜も死滅し、全身が毛の生えた哺乳類に取って代わる。もっとも、恐竜の絶滅については小惑星衝突説などがあるんですが・・・。
ゲソ:わかった、わかった。環境に順応してゆける生物が子孫を繁栄するということだな。優性種、ここでいうところの優性というのは必ずしも普遍的な優性ではなくその時代により優れた適応力を持つ、という意味の優性だな。それが、進化する要因だということは君が言う通りだ。それが疑問なのかね。
ザク:いえ。植物でいうと、そうですね。例えば、椰子。ヤシの木ですよ。南の島の海岸に群生している。あの植物は塩に強かったというのが考えられますね。当たり前かもしれませんが。繁殖するのに、彼らというか彼女らは、種子を海に落とすんですよ。砂浜かもしれませんがね。それが、波にさらわれて、そして何百キロも離れた別の海岸に到達し、そこで根を降ろす。凄くないですか?
ゲソ:続けたまえ。
ザク:例えば、鳥が好む美味しい果肉を持った実の鳴る植物は、わざと食べてもらい、種を遠くまで運ばせ、そして繁殖する。美味しいだけじゃない。赤や黄色や目立つ色にして、鳥をおびき寄せるのです。
ゲソ:つまり他者を媒介にして種子を蒔いているということだな。続けて。
ザク:他にもたくさんそいう例はあります。たぶん、椰子の場合も当初は色々な種類の椰子の原形になる植物があって、今の椰子が一番環境に適していたし、種子を長い間守り、そして水に浮き漂流する繁殖の仕方が最も良かったから今の椰子が存在しているわけですよね。
ゲソ:まあ、そういうことになるかな。
ザク:しかし、媒介するものがあって、初めて成り立つのですよ。花が昆虫類をおびき寄せ、交配するというのもそうですが。
ゲソ:君の言いたいことは、その第三者、例えば風、水、昆虫、鳥などを媒介として種族を増やす知恵というか、そのメカニズムが知りたい、とこういうことかね。
ザク:それもまあ不思議なんです。植物にも動物の本能のような意思があるのかなんて。
ゲソ:そりゃそうだな。案外意思があるのかもしれんな。細胞レベルで。動物の脳や神経なども細胞のひとつひとつの意思の中枢としてあるのだと思うよ。まあしかし、意思というより、一種のプログラムなんだろうな。
ザク:そうなんですかねえ。気の遠くなるような長い年月をかけて鳥に種族の繁栄を託すことを選択した植物は、その結果をどこで知るんでしょうね。例えば、ヤシの実がですよ、やがてどこか遠い地に上陸して、そして芽が出て、木になりまた子孫を残すことに成功したことを知る由も無い筈なんですよね。
ゲソ:つまり、親はその方法を選択したことを良い結果だと判断できない、ということだね。
ザク:はい。そんなところです。
ゲソ:なるほど。そりゃそうだ。しかし、分からないのは仕方無いだろ?
ザク:仕方無いのですか?
ゲソ:人間だって、子どもの行く末まで親は知らない。レールを敷いてやっても、親の望むようにはならないしな。
ザク:うーん、そういう例えでいいのですかねえ。
ゲソ:同じことだ。親は子どもを産む、育てる、というそこまでで役目は終わりなんだ。植物だって、下等動物だって、種子や卵を産めば、親としての役割を果たしたことになる。あとは勝手に子孫が育ってゆく。でかくなっても面倒見てるなんているのは人間くらいのものだな。
ザク:先日テレビで観たんですがね、プレーリードッグって、家族で暮らしているのですが、子どもがある程度大きくなった時点で父親は出てゆくらしいです。
ゲソ:不思議なもんよのう。鳥の巣立ちだって、一生懸命育てた雛が、やがて飛んでいってしまうんだからな。
ザク:生物はどうして種族の繁栄をプログラムされているんでしょうね。
ゲソ:分からん。種族が繁栄してなにか得をすることも無いような気もするが。もっとも人間の場合一人じゃこれほどの文明は生み出せなかったわけだしな。が、高度な文明を生み出すことまでプログラムされているのかどうかは誰も分からない。
ザク:そこまでゆくとまた神の仕業というわけですね。
ゲソ:さっきの話に戻るが君の疑問。漂流して親の住んでいる島から遥かに離れた地に根を降ろし育ったヤシの木の子孫は、その漂流して根を降ろすまでの方法というかプロセスをどこかに記憶して、自分の体内に改良を重ねてゆく。細胞の一つひとつに、自分がどうやって生まれたか、どうやって育ってきたのかという経験が知識として記録されるのだろうな。そして、次世代がそれを受け継いでゆく。

勉強しても分からなかったら研究すればいい
ザク:おそらく、一番最初のヤシの実はもっと違う形だったんでしょうね。
ゲソ:そうかもな。最初は水に浮かんでも、塩にやられてすぐに駄目になるとかな。
ザク:で、次世代はもっと強い殻を持つようなプログラムを変更する。いえ、そうじゃなくて、何種類かの殻の中で最も適した殻を持った種から生まれたヤシが更に改良を重ねる、という感じですか?
ゲソ:おそらくそうだろうな。
ザク:風に飛ばされて運ばれた種子から育った植物も同様ですね。
ゲソ:さよう。鳥に食われて、運ばれ、糞と一緒に地上に落とされた植物も同様だ。
ザク:保護色の機能を持つ生物がいるのも?
ゲソ:そうだな。
ザク:なんだか不思議なものがやっと分かってきたような気もしますし、余計に不思議になってしまったようです。
ゲソ:それでいい。科学はだから奥が深いのだ。分からなかったら勉強すればいい。勉強しても分からなかったら研究するのだ。
ザク:どうしても人間は結果を求めてしまうんですよね。結果が出ないと研究もしない。
ゲソ:その通りだよザクソン君。生物が何故進化を遂げるのか。そして、生物の根本的なプログラムがどうなっているのか。そう簡単に解明されるわけではない。しかし、科学者は研究を続ける。
ザク:しかしですよ、生物が何故生きるのか、何の為に生きるのか、そして何故繁殖しようとするのか、逆にそれはそういうものだと割り切ってしまうと楽じゃないですかね。私などはそうしか考えられないですね。
ゲソ:割り切れる奴はいいさ。私は割り切れないからこそ研究をする。科学者の宿命だな。
ザク:なんか麻雀の話をする時の博士とは違いますね。
ゲソ:そんなことはない。麻雀も科学だ。相手の当たり牌を全身全霊で読む。自分の手がどう発展してゆくのか、そしてどう発展させるか、また、ここで降りるか、それとも勝負か。勘ももちろんある。しかし、根拠もある。
ザク:おっと、うっかり麻雀の話になってしまいましたね。まあいいか。
ゲソ:科学だって勘が必要なんだよ。勘が悪けりゃ仮定が浮かばない。事実だけを見ていては進歩は無い。仮定を立てるということ、推測すること、これが重要なのさ。おそらく、生物が進化をする最も重要なプログラムは環境や将来性に対しての仮定することだろうな。
ザク:なるほど。すると、漂流させて子孫を遥かかなたへ送り届けるというメカニズムを持った植物は、「ひょっとすると、海に種を落とせば、世界中に子孫が広まるんだな!」って考えたわけですね。
ゲソ:考えた?
ザク:プログラムした、ですか?
ゲソ:「考えた」で結構。案外、本当に考える機能があるのかもな。
ザク:まさか。
ゲソ:もちろん、植物には脳は無いさ。我々が一般的に「考える」という概念とは異なる「考え」があるのだろう、きっと。
ザク:そうなると、いやだなあ。私、きっと植物に恨まれてますよ。
ゲソ:なぜだい?
ザク:草刈りをやらされるのですが、片っ端からやっつけてます。
ゲソ:そりゃ仕方無い。そもそも人間は殺生しなければ生きてゆけない。
ザク:無駄な殺生だけはしたくないですね。
ゲソ:その通り。戦争もしたくないな。
ザク:長い長いことかかって進化してきた人間ですものね。命は大事にしなきゃ。
ゲソ:うむ。
ザク:最期は綺麗に着地した感じですね。
ゲソ:含蓄のあるテーマだったな。ま、どうせ読者諸君はそこまで読めないのだろうがね。
ザク:そりゃ失礼ですよ!!

2003/12/3 うすらば研究所 Oretachi.jp
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ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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