ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第8話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン


新そばの季節

ザク:博士。この季節は新そばの季節だって知ってました。
ゲソ:なんだね、やぶからぼうに。だいたい穀物は秋が収穫の季節だから当たり前の話だ。新米もこの時期だろう。
ザク:しかし、新そばの季節を特に意識してましたか?私は全然意識したことが無いのですよ。
ゲソ:そう言われてみればそうだな。私はそば好きなので、もちろん、新そばなんて聞くと心が踊るのだがね。
ザク:あ、そうなんっすか?博士は趣味が広いのですね。
ゲソ:趣味というか、研究対象のひとつでもあるさ。そばは奥が深いのだ。
ザク:分かります。熱心な人っていますよね。博士じゃないけど、私もそばは哲学に通じるような気がしますが。
ゲソ:君ぃ。イメージだけで安易に哲学などと軽々しく言ってほしくないな。
ザク:それは失礼しました。慎みます。でも、なんていうか、そばを打つ人を見ると、神々しいというか、かっこいいんですね。味わいがあるというか。
ゲソ:そりゃそうだ。そば打ちの修業は大変だ。人間形成にも大いに役立つ。趣味の範囲でいいから試しにやってみるといい。ちゃんとしたそばが出来るのには相当な修業が要ることが分かるはずだ。
ザク:実は私もやってみたいと思っているんですよ。でも、面倒ですね。道具も要りますよね。お金もかかりそうだ。
ゲソ:道具は確かに要るな。しかし、工夫すれば、色々なもので代用できるさ。粉と水、そしてツナギをこねる鉢、つまり、こね鉢は大きなものが必要だが、ボールでも代用できる。あとは、大きめのまな板に、のし棒の代わりになるようなものがあればいいな。私の場合は、まだ道具が無かった頃、ごまを擦るすりこぎ棒を使っていた。ここ(下)に、ナゲ氏の作ったページがあるから、必要な材料を買ってもよいし、アイディア次第で代用するのもよい。セットで買っても安いのであれば、1万円くらいで買えるはずだよ。
ザク:そば切り包丁も普通の・・・、そういえば、うちのおやじがそば打ちを初めてした時も、普通のまな板と、普通の包丁でしたね。
ゲソ:ま、代用は出来るな。しかし、まな板は面積が小さいから生地を延ばし難い。余計に手間がかかってしまうな。
ザク:そうでしょうね。よく、作ったなあ、という感じでした。でも、うまかったですよ。
ゲソ:そりゃ、そうだろう。手打ちはうまい。
ザク:ぼそぼそしていて、それがまた手作りを実感しましたね。
ゲソ:ぼそぼそするのも味があって、いいな。しかし、あんまりひどいと、ぶつぶつ切れて、麺と呼ぶには程遠いものになるわな。やはり適度な粘りと、腰と、歯切れがなくてはうまいそばではない。そば打ちの難しさはその辺りだ。
ザク:では、本日は博士の手打ちそば教室でも開きますか!
ゲソ:うむ。それじゃ、ちょっくらご披露してみっか!
ザク:なんかヘンな乗りですね。
ゲソ:気にするな。まず、材料だが、当然そば粉がいるな。
ザク:ええ。しかし、なかなか手に入らないのでは?
ゲソ:いや、かつては入手するのが難しかったが、今はスーパーでも売ってるな。もっとも、そば湯用のを買ってしまうと、割高なので、ちゃんとしたところで買ったほうがいいだろうな。
ザク:目安はどうなんですか?
ゲソ:そうだな、具体的に何キロでいくら、というのは分からんが、何人前用というので、常識的な範囲で買ったらどうだ。例えば、1人前換算で100円から300円くらいとか。300円より高ければ、そりゃめちゃくちゃ高級品だよ。
ザク:なるほど。そういえば、茂野製麺さんでもそば粉が売ってましたね。確か3人前で600円だったかな。茂野和彦常務は、料亭でも使っているくらい高級なそば粉だとおっしゃってましたね。
ゲソ:そうだな。しかし、せっかく手間暇かけてそば打ちをするんだから、安いそば粉よりは、ちょっとくらい贅沢したほうがいい。
ザク:そば粉の次に用意するものは?
ゲソ:ツナギに使う小麦粉だな。この割合でそばの性格が大きく変わる。喉越しの良さとか、食感とかがな。一般に半分くらい小麦粉を入れるほうがいいだろうな。特に初心者は、多めに小麦粉を使わないと、腰が出ない。
ザク:まったく入れない10割そば、なんていうのもありますけど、それは大変なんでしょうね。
ゲソ:そりゃ大変だ。そばそのものは粘りが少ないので、相当こねないと麺にはならない。それに、ぼそぼそし過ぎているし、へたすると、茹で上がった時にまるで水炊きの団子のようにぼわぼわになってしまう。十割そばを作るのは、少し慣れてきてからしたほうがいい。二八そばなんていうのもそうだな。
ザク:しかし、私はどちらかといえば、黒っぽくてボソボソした感じは嫌いじゃないんですよ。
ゲソ:分かる。私も更科そばの白い粉よいも石臼引いた粗引きの田舎そばが好みだな。
ザク:田舎そばというのは、黒っぽいそばのことですね。
ゲソ:さよう。種類が異なるのだ。他にも、ダッタンそば、という種類もある。
ザク:私も最近知りました。ルチンというビタミンの一種が通常のそばの100倍も含まれているとか。
ゲソ:その通り。ダッタンそばは、中国やネパールの高地で育てられているのだが、やや苦みがあり、それはそれでまたうまいのだよ。茹で上がると、煮汁が黄色くなる。
ザク:それ、そば湯として飲めるんですか?
ゲソ:飲めるとも。むしろ、水に溶け易いルチンをきちんと摂取するのに、そば湯は有効なのさ。
ザク:そういえば、「ダッタンそば茶」というをお店で見かけたのですがね、あれはどうなんでしょう。成分表示にルチン??mgと表記されてますが。
ゲソ:ルチンを含有しているのだったら間違いなく蕎麦が入ってるな。ルチンは自然食品の中では蕎麦にしか含まれていないらしいからな。
ザク:ルチンはどういう効果があるのですか?
ゲソ:血液をさらさらにして動脈硬化を防ぐ作用があるらしい。
ザク:それが健康食品と言われる所以ですね。
ゲソ:んー、食品法で言えば、健康食品とは定義が違うが、間違いなく健康に良い。
ザク:健康に留意しない博士らしくないじゃないですか。(笑)
ゲソ:いや、健康にいいとか悪いとかは特に気にしてないさ。基本的には暴飲暴食だからな。しかし、そばを好んで食べているというのは、体が自然に欲してるもんなのだな。人間は実にうまくできている。好物でも同じものをずっと食べていると飽きるもんだが、あれは体がバランス良く栄養を摂るように要求しているのだろう。
ザク:なるほどね。暴飲暴食していても、博士が健康そうに見えるのはそういうことなんですね。
ゲソ:むむ。健康そうに見えるかね。わたしゃ、健康そうな博士というイメージは本望ではないが、仕方ないか。まあ、健康な体には健康な精神も宿ると言われてるが、私がその典型かもしれないな。

さっそく そば を作ってみよう
ザク:さて、そば粉、小麦粉が揃い、次に何をするのでしたっけ?
ゲソ:まず、2つの粉をそれぞれふるいにかけてよりキメ細かくする。そして、空気をたっぷり含ませてな。そして、こね鉢に入れ、2つの粉が均等に混ざるようにする。塩も若干加える。おっと、入れすぎるなよ。それから水だ。
ザク:水ですね。ここが重要なポイントですね。
ゲソ:そう。この水の良さ、それから加減でそばの味が生きるか死ぬかなのだ。名水どころに美味いそばがあるのは、そういうことだ。まあ、ペットボトルの水を使うのもなんなんで、水道水でも構わんがね。できるだけ、カルキ分は抜いたほうがいい。一度煮沸しておいて冷ますとかね。あるいは、浄水器から。
ザク:いよいよこねるわけですね。
ゲソ:そうだ。水の分量などは色々な本も出ているので、それを見なさい。んで、こねるのだが、これもまたそばの腰などを決定づける重要な作業だ。手を抜かないように。力を入れて、粘りが出るように頑張る。鉢の底にくっつきやすいから打ち粉をうまく使うんだが、あまり入れすぎると小麦粉の分量が多くなってしまうから注意だ。
ザク:はい、了解です。十分練り上げた後に今度は延ばすわけですね。
ゲソ:黙れ。先を急ぐな。手順は私がリードする。
ザク:すみません。では、練り上げた後はどうするのでしょうか。
ゲソ:次にまな板の上で延ばす。
ザク:この辺りもコツが要るんでしょうね。
ゲソ:あたぼうよ!
ザク:お、今度は江戸っ子ですか!?
ゲソ:均一に延ばすのだ。きちんと延ばしておかないと、喉越しが悪い。
ザク:いよいよ麺を切るわけですね。
ゲソ:だから手順を言うな。
ザク:すみません。
ゲソ:延ばす時にも打ち粉を敷いておかないと、板にくっつくからな。それで、3つに折り畳んでいよいよ切るわけだ。そば職人はあっと言う間だに綺麗に切ってしまうが、素人はゆっくりでいいから出来るだけ等間隔に包丁を入れる。これで一応そばの完成だ。
ザク:手間暇かかる分だけ格別な味がするんでしょうね。
ゲソ:そのとおりだよ、ザクソン君。

ザク:では、さっそく茹でるとしましょう。
ゲソ:お湯はたっぷりあるかね。
ザク:はい。多めにあります。
ゲソ:そう、お湯は出来るだけ多いほうがいい。麺を踊らせるのだ。十分沸騰にてからな。
ザク:入れました。
ゲソ:茹で過ぎるなよ。2、3分で茹で上がる。時々、麺を1本すくい上げて、茹で加減をチェックしたまえ。
ザク:ちょっとまだ芯があるようです。
ゲソ:芯があるのはまずいが、少し固めくらいがちょうど良い。
ザク:おっと、吹き上げてきました。水を・・・。
ゲソ:ばかもん。びっくり水は入れるな。まずくなる。火を止め、ザルに移してから一気に冷水を注ぐのだ。こうすることで旨味がぎゅっと閉じ込められる。ほれ、もういい頃合いだろ。火を止めるのだ!
ザク:は、はい。
ゲソ:煮汁は捨てるなよ。この中には体に良い成分がたくさん含まれているのだ。
ザク:そば湯にするのですね。あ、あっ!あっちっち!
ゲソ:気をつけたまえ!ほら、今度は湯をよく切り、冷水に浸す。ええい、面倒だ。私が。
ザク:大丈夫ですよ。で、勢い良く水を流してます。
ゲソ:軽く揉むようにしてな。よし、十分冷えたところで、水を切れ。ちゃっちゃっちゃとなっ。
ザク:はい、はい。やってます。
ゲソ:ほれ、早く器に盛れ。
ザク:うるさいですね。い、いや、失礼。はい、これでどうです?
ゲソ:まあまあだな。
ザク:つゆはどうでしょう。
ゲソ:ふっふっふ。これだよ。先ほど私が作っておいたものだ。ほれ、いい香だろう。どうだ。
ザク:ほんと、いい香です。かつ節の香でしょうか。
ゲソ:ふっふっふ。かつ節はたっぷり入っとる。醤油に砂糖、味醂と長年の研究した微妙な配分になっているのだ。つゆは売っているのでも十分うまいがな、私もはもっともっとうまいのだ。
ザク:私は海苔を刻みましょう。火にあぶって。
ゲソ:海苔はいいが、薬味はどうした?
ザク:大丈夫です。特別に生わさびを調達しました。
ゲソ:なに?嬉しいことを聞いたな。さすが私の弟子。高い授業料を払っているだけある。ん?金は貰ってないぞ。
ザク:すみません。
ゲソ:なあに気にすることはない。さ、さ、さっそく食べよう。
ザク:はい。これ、氷水です。つゆを希釈するやつ。
ゲソ:かたじけない。できれば、刻みネギ・・・、お、さすが、これも用意してたのね。
ザク:残念ながら、茗荷に大葉は無いのですが。
ゲソ:無くともよい。生わさびがあれば。

そば は、つるつるしこしこがうまいのだ。
ザク:どうです?
ゲソ:なにが?
ザク:そばに決まってるじゃないですか。味のほうはどうなんです?
ゲソ:つるつる、もぐもぐ。
ザク:おいしいんですか?
ゲソ:つるつるもぐもぐ。
ザク:どうなんですか?
ゲソ:つるもぐ。うるさいなあ。もぐもぐ。もうちょっと黙って食え。
ザク:はい、しかし、さっきから博士は何にも喋らないじゃないですか。おいしいのですね。
ゲソ:ん、なかなか腰がある。初めての割りには大したもんだ。もう少し早めに火を止めればよかったかな。少し茹で過ぎたかもしれない。まあ、十分及第点だよ。むしろ年配にはこのくらいがちょうどよいくらいかもしれない。
ザク:有難うございます。確かに少し柔らか目かもしれません。私もやや固めが好きなので。
ゲソ:何事も修業だよ。もぐもぐ。
ザク:しかし、博士においしく食べてもらえて嬉しいです。
ゲソ:当たり前だ。私が技術指導してるからな。それに、こちとら暫くはカップ麺しか食ってなかったもんでな。おっしゃ、ご馳走さん。じゃあ、そば湯を頂くとするか。ずずずずーっと。
ザク:博士、楽しそうですね。
ゲソ:まあな。そばは楽しい。
ザク:しかし、手打ちは確かにいいけど、大変ですね。手軽にそばを楽しむのに、そうしょっちゅう手間をかけるのはどうも。
ゲソ:まあ、うまい生そばはスーパーでも買えるがな、しかし、へたな生そばよりも乾麺もいいぞ。茹で加減が調節できる。
ザク:しかし、鮮度が。
ゲソ:いや、何日も日持ちがする生そばは逆に「?」だよ。鑑麺には防腐剤が入ってない。もっとも、入っているのもあるな。ほれ、鎌ケ谷の茂野製麺って会社に聞いたら、茂野の麺にはそういった類のものが一切入ってないそうだ。私も以前は断然生そば派だった。そこで茂野の息子(常務)に、乾燥する前のそばを売るわけにはゆかないのかと尋ねたことがある。しかし、日持ちしないそうだ。おそらく一日も持たないとおっしゃる。そういう話を聞くにつけ、乾麺も捨てがたいと思った次第なのだよ。しかも、旨味を閉じ込めてしまうから、これがまたうまいんだな。本当につるつるしておる。通常の方式よりも倍の時間をかけておるそうだよ。
ザク:ふーん。それはなかなか大変なことですね。私も茂野のそばを食べましたが、はっきり言ってうまかったです。
ゲソ:それからな、そば茶、というのがある。伊藤園から出している「純そば茶」という製品があるが、あれはうまい。
ザク:私も飲んだことがあります。本当にそばの成分が入っているのですよね。
ゲソ:そうとも。500mgのペットボトルにルチンが30mgも入っている。健康にも良い。それにな。焼酎で割るとこれまたうまい。そうそう、そばを茹でた汁、つまりそば湯も焼酎に入れて飲んでみろ。素朴な味わいでうまいぞ。
ザク:あったかいまま入れるのですか。
ゲソ:そうだ。下手な市販のそば焼酎のお湯割りよりもっとうまい。
ザク:有難うございました。なんか、ますますそばが好きになってしまったようです。

2003/10/13 Oretachi's Home Page
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ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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