ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第6話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン



難しい問題
ザク:博士、いよいよベイタウンで一番難しい問題になります。
ゲソ:難しいというとアレか。
ザク:アレです。
ゲソ:しかし、アレは難しい。なんにしても大人同士、理解し合うことが必要だ。自分の要求ばかり言って相手の言うことを聞かない、というのはもってのほか。
ザク:そう、そう!博士、最初から飛ばしますね。
ゲソ:まあね。しかし、そんなことくらいで褒められても嬉しくない。やはり、アレの一番重要な点は、共通の世界観を持っていることだろうな。あんまりにも差異があり過ぎると、お互いが見つけられなくなる。最低限だな、例えば芸術に相当な理解があるとかな、あるいはスポーツに関してはそこそこ同じような価値観を持っているとか、食い物でもいいな。あるいは音楽の趣味が同じだとか。できれば70年代のプログレがいいが、多少ズレていても仕方ない。ルックスは二の次だ。いくらルックスが良くても、気持ちが擦り合わないと早く別れてしまう。
ザク:ちょ、ちょっと、博士。それ、恋愛論じゃないですか?
ゲソ:なんだ、違うのか?まあいい、聞きたまえ。それはまだ私が三十半ばの頃だった。
ザク:いえ、それはまた別の機会にお願いします。今日は交通問題について、博士の見解をお聞きしたいのです。
ゲソ:そうか。それを早く言え。こっ恥ずかしい。危うく私の大恋愛、いや、大悲恋を語ってしまうところだった。うっかり喋ってお代が取れないなら、大損失だ。
ザク:はいはい、分かってますよ。ですから、今日はベイタウンで最も熱い論争が繰り広げられている最も難しい交通問題です。

ゲソ博士、ベイタウンの交通問題を語る
ゲソ:最も難しいなんて、逆に本当は最も簡単なことだろ?違うかね?つまり、マナーを守らない人間がいるから問題であって、決まった規則をみんなが遵守すりゃそれでいいじゃないか。なにか不満でもあるかね。
ザク:守らない人がいるから、というのは分かってます。だけど、それをどう守ってもらうんですか?
ゲソ:守るってったって、本人の自覚がなくちゃだめだ。周囲がいくら言っても聞かないもんは聞かないよ。
ザク:それじゃ、話がそこで終わっていまいます。そうじゃなくて・・・。
ゲソ:じゃあ、守れるルールにすりゃいいわけだな。
ザク:どうなんでしょう。あんまりよく分からないけど。
ゲソ:例えば、ここは時速50キロメートルまではOKだけど、みんな守らないんだったら、いっそ時速100キロメートルまでOKにするとか。
ザク:そんなの駄目に決まってますよ。ベイタウン内ですよ。危ないじゃないですか。
ゲソ:そう。危ないのだ。クルマの運転手だって、普段は歩行者だし、家族だっているだろ?家族が危険な目に遭う可能性だってある。まったくリスクの無い人間はいない。もっとも私は家族もいないし、親戚とも縁を切っているから自分だけのことを考えていればいい。それは関係ないが、つまり一見自分に都合の良いと思われるものでも、いろいろな場面を想定してみろ。よくよく熟慮してみれば、絶対に自分に戻ってくるわけだ。それにな、ものには常識的ラインが必ずある。私は常識という言葉は好きじゃないが、自分と異なる人物と話しをするのに、常識は外せない。ベイタウン内だったら果たして制限速度は何キロだったら妥当なのか、というラインが必ずある筈だ。
ザク:今おそらく自治会連合会の常任委員の交通委員会の見解では時速30kmに制限しようという案が出ています。
ゲソ:そのラインは彼らの独自の見解なのかね?
ザク:いいえ。かなり広範囲なアンケートや、何度かの会合を開いて設定した数値なのだと思います。
ゲソ:んー。30kmねえ。30kmだと自転車のスピードじゃないのかな?私はクルマを持っていないから分からないが、自動車としてはえらい遅いんじゃないか?きっと、こどもが急に飛び出してきた時にきちんと止まれる速度なのだろう。
ザク:そうだと思います。クルマが停止するまでの距離は、走行スピードの二乗とかいうことを教習場で習ったような気がします。
ゲソ:運動エネルギーがそうだからな。(ほんとか?)が、30kmでも良いが、殆どのクルマは違反することになるぞ。30kmで通行するクルマなど現状無いのだ。仮にきちんとそういう規制を設けて、違反者には反則金を取ったとしても、守れる筈のないルールによって隣近所の誰もが違反者になってしまう。
ザク:しかし、現状50km以上で通行しているクルマは大幅に減少すると思いますが。
ゲソ:あほぬかすな。細くて誰が飛び出すか分からないような路地ならともかく、まっすぐで、しかもある程度広い道だったら、自ずとスピードアップしてしまうのが人情やで。いや、言い換えれば、制限速度の標識が無くとも、状況に応じて、例えば通行人が多い、障害物がある、通学路だとかの条件によってはだな、良識があれば危険回避はちゃんと行う筈や。つまり、守れる人は標識がなくても守っているし、守れない人は標識があっても守れないっちゅーことや。
ザク:そんなもんですかね。
ゲソ:そうとも。

結局、個人のモラルに拠るもんだ
ザク:そうなると、個人のモラル、ということで終わってしまうのじゃないですか。まあ、実際にそうであったにしろ、猛スピードで走り抜けてゆくクルマが多いのでは住民も安心して暮らして行けません。住民として、やはり対策を練らないと、自分たちの生活を守れない。
ゲソ:そりゃそうだ。では、速度規制にして、標識を立てることで解決できると考えているのかね。駐車場の入り口に「無断駐車は3万円申しつけます。」と書いてあるのとは違うのだぞ。それとも、全てのベイタウンの入り口に、「ここから先の道路は30km制限です。30キロを超えると罰金5万円です。」とでも書いておくか?これなら効果はある筈だ。もっとも、看板の周囲のビジュアルは思い切り低下する。
ザク:ビジュアルねえ。そう言われると、ビジュアルって大事ですよね。でも、見た目よりも人の命のほうが大切ですよ。この際、多少のビジュアルは目をつぶってもらうしかないんじゃない?そうだ、ベイタウンの交通問題の会合でも、街の入り口に大きな看板を立てて注意を促す、という案が出ていたようですよ。
ゲソ:街のあちこちに標識が出ているよりはまだマシってもんだがな、それでも景観を著しく害する。
ザク:ですから景観よりも人命ですよ。
ゲソ:当たり前だ。誰も尊い命を軽んじてはいない。私の言いたいのは、看板を立てるくらいじゃまったく効果は出ないのではないか、と言ってるわけだ。しかも、景観を著しく低下するというデメリットを伴ってだぞ。
ザク:じゃあ、ほかに手はないのですか?道路に起伏をつけたり、段差をつけるやり方とか、ですか?
ゲソ:無いこともない。例えばだ。まだカーナビの普及率から考えると、非現実的かもしれないが、ベイタウン内に入ると、「ここは制限速度が30kmです。」というアナウンスが流れ、仮にそれよりオーバーすると警告を発するというシステムを作る。原理的には簡単だ。衛星から受信する周波数に割り込むような格好で、ベイタウンの数カ所から電波を発すればいい。まあ、本当はそれ専門の周波数で専用の受信機があればいいのだが、とにかく、このような地域からの交通情報の受発信システムが将来的に日本の各地にあればいいのだが。つまり、走行しているクルマで、ホームページにのように地域に特化した情報がリアルタイムで受け取れるのだ。
ザク:ふうん。確かにもう少し先の話にはなりますが、いいかもしれません。でも、今すぐに、と言えば。
ゲソ:1600kHzあたりで、交通情報を流しているが、あの周波数にベイタウンからの情報を発信するというのは?まあ、これも必ずしもドライバーが受信しているわけじゃないからな。いずれにしても、現代社会はメディアが溢れていて、共通の認識を持つようにするのは至難なのだ。絶対に知らせなくてはならない情報を発信しても、受け取る側のメディアの選択肢が有り過ぎて、結局は何も伝わらないのと同じ。警視庁がやってる「交通法規を守りましょう」、なんていうアナウンスにしたって、ありとあらゆるメディアに訴えてゆかねばならない。その広報費用といったら、どれだけの数字になるんだろうね。それだったら、強制的でも、ドライバーが絶対に受け取らなくてはならない情報システムを作るとかを国家予算レベルで考えてもいいんじゃないかな。クルマに義務的に取り付ける受信機で、緊急放送等を強制的に受け取るものとか。いいや、十数年前に発足したQQ放送システムだったけ、あれも浸透しないようだから無理があるか。

思いやり。これだね。つまり。
ザク:しかし、博士のお考えは、すぐには実現しないものばかり、い、いや、失礼。そんな感じがしてならないんです。
ゲソ:その通り、今、私のレベルで考えられることはそんな程度なんだよ。現実的というレベルでは取り締まりの強化かな。管轄の千葉西警察に頼んで、頻繁に取り締まりしてもらうか。そんなことは私の考えることではない。信号を増やして、タイミングをコントロールすることによって、クルマのスピードを強制的に遅くする、というのも考えられるが、ま、そんなところか。誰でも思いつく程度のことしか浮かんでこないわな。
ザク:そうですね。じゃあ、次の問題にゆきましょうか。駐車問題についてはどうですか?
ゲソ:これも困った問題だ。交差点の付近に駐車されると、歩行者は危険に晒される。
ザク:何か方策は?
ゲソ:ある。あるが、ここでは控えておこう。インターネットだからな。あまり具体的に出来ない部分もある。
ザク:分かります。では、駐車問題はここで取り上げるのをやめときましょう。考えてみれば、こちらも個人個人のモラルの問題ですよね。
ゲソ:さよう。
ザク:マリンデッキの自転車通行については?
ゲソ:無論、乗ったままの通行は危ない。
ザク:それだけですか?
ゲソ:それだけ。あんまり言及したくない。
ザク:なんで?
ゲソ:誤解されそうだからな。私くらいの自転車の達人になると、いくらスピードを出していても、急な対応をとれる。だが、普通の人間はやめたほうがいい。
ザク:博士は自転車が得意なんですか?それは初めて聞きました。
ゲソ:知らなかったのか?クルマに乗らない代わりに自転車は大の得意だ。
ザク:そうだったんですか。しかし、過信して、マリンデッキから何かに激突する、しそうになる、なんてこともあるでしょ?
ゲソ:それ以上は喋るな。だから言っただろ?誤解されるからと。あそこを自転車で走っているのを知られたら、私の人気はガタ落ちだ。
ザク:でも、さっき、自転車に乗って通行するのは危ないと言ったじゃないですか。博士は得意だから特別なんですか?それはおかしくないですか?
ゲソ:なんだ、そんなしょうもないことで怒りやがって。だから私は特別なのだよ。こう見えてもかつてはヒル・クライムをやってたくらいだ。競技としてな。もちろん、ジェットコースター並みのダウンヒルもやるのだよ。
ザク:全然そう見えないけどなあ。しかし、どうなんですかねえ、自転車通行は絶対に危ないと思うんですが、乗ったまま通過する人は結構多いですよね。
ゲソ:だから、一般的には危ないと言ったんだ。私以外はね。怪我をしたくないのなら、やめたほうがいい。
ザク:でも、自転車乗ってるほうの危険は承知の上だからいいんでしょうが、巻き添えになってしまう可能性のある歩行者はどうなるのですか?猛烈な勢いで降りてくる自転車はある意味凶器じゃないですか?
ゲソ:下手な奴はな。私は大丈夫だ。それとも、やはり監視員でもつけるかね?廊下は走るな、みたいに。学校じゃあるまいし。タバコのポイ捨てもそうだし、今日の対談は全て個人のモラルの問題じゃないかね。
ザク:そういうことなんでしょうね。ちょっと、当うすらば研究所としての研究テーマには相応しくなかったかもしれません。

みんなが考えてくれればいいのだよ
ゲソ:まあ、そう言うな。こうやって、議論してるうちに、色々と意見を言ってくれる読者もいるのだから、たたき台になったと思えばいいじゃないか。それにな、最期にこれだけは言っておきたいのだが、交通ルールに関して一言で括ればだな、「思いやり」だよ。親がこどもに対する思いやり、お年寄りに対する思いやり、交通弱者に対しての思いやり、どれも同じだ。自転車にしても、歩行者を驚かせながら歩道を疾走する馬鹿者もいるし、一旦停止を守らないどころか、歩行者が横断歩道を渡っているのにも関わらず、無理に通行する馬鹿なクルマ。こうした思いやりに欠ける人間の為に悲しい犠牲が今日も続いているのだ。うすらば研究所も微力ながら、よりよい明日の為に今後何か考えてゆかねばならない。せっかく綺麗な町並みのベイタウン、石畳のベイタウンを風景だけじゃなくて心豊かな街にしてゆかねばならない。是非皆さんにご意見を頂きたいね。
ザク:はい。私もそう思いますす。その他、交通問題については、今博士もおっしゃっていたように、一時停止を守らないことについてとか、街区ごとにパイロンを置く対策の是非、などなど多くの問題がありますが、また別の機会にしましょう。それから、ベイタウンの交通問題に日頃から取り組まれている交通委員会の方々にこの場をお借りして、お礼を申し上げます。さて、今回のところはこれで終わりですね。なんか、消化不良気味ですけど、次回はもっと博士のモチベーションが高いものをやりましょうね。
ゲソ:例えば?
ザク:博士の女性問題とか。い、いや、ウソです。すみません。
ゲソ:女性ね。うーん、「ジェンダーフリー」ということについては何か語れるぞ。
ザク:難しいテーマですね。そっち系統でいいんですか?なんとなくヤバいこと言いそうで怖いです。
ゲソ:なにを言う!私の人気が落ちるようなことは言うな。それでなくとも、最近へんなところで目撃されていて噂になっている。
ザク:博士がヤンマーでモヤシ2袋買っていたという情報ですね。いいじゃないですか。庶民的で。いったい何を作ったのですか?
ゲソ:いちいち私が料理する内容をインターネットで報告しなきゃならんのかね?
ザク:そういうわけじゃ。ただ、2袋買うというのが解せないんです。
ゲソ:2袋買ったら、モヤシ炒めに決まっているだろ。もっと推理したまえ。この研究所が発足してから、一番の重要項目だよ。まず、仮説を立て...。
ザク:それを立証する。ですね。
ゲソ:こいつーっ!(笑)
ザク:へへへ。

2003/10/9 Oretachi's Home Page
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ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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