ベイタウン唯一の科学研究機関
- 第4話 -   出演:ゲソ博士 聞き手:助手のザクソン


博士の睡眠は短時間??
やあ諸君、今日も元気に科学しようじゃないか!ゲソ:おはよう、ザクソン君。心なしか不機嫌そうだね。どうした?
ザク:殆ど徹夜で仕事が入ってしまって。
ゲソ:そりゃ気の毒に。だが、少々の徹夜くらいで、なんだ。私を見ろ。徹マンが続いても、この通り。
ザク:博士はいいですよ。昼間たっぷり眠れるから。
ゲソ:たっぷりではない。せいぜい3時間くらいだ。読者の方々に誤解されてしまうではないか。ドクター・ゲソは昼寝好き、なんて変な評判を立てられたくない。つまらないことだと思うだろうが、私は睡眠時間が短いのを少しだけ自慢しているのだ。
ザク:それこそ変な自慢ですよ。確かに一日3時間は短いけど。
ゲソ:誰が3時間しか寝ないと言った。3時間しか寝ないのは売れっ子のアイドル歌手とか、ナポレオンくらいだ。人間は最低でも7時間は睡眠が必要なのだ。
ザク:え?3時間じゃなかったんですか?
ゲソ:そりゃ、そのくらいの睡眠で十分ならそうしてるわい。だがな、やはりこの歳だからな。麻雀する前にたっぷりと睡眠をとるようにしているのだ。
ザク:なんだ、結局いっぱい眠ってるじゃないですか。
ゲソ:違う、違う。トータルで6時間くらいだ。
ザク:十分じゃないですか。私だって平均5時間くらいですよ。ま、どうでもいいですから、テーマに参りましょう。
ゲソ:その前にな、ちょっと話しておきたいんだが、いいかな?
ザク:なんでしょう。気持ち悪いですね。あらたまったりして。

ゲソ:君はこの前から麻雀のことを侮蔑しているようだから、この際はっきり言っておく。
ザク:いえいえ、ばかにしてるわけじゃありません。私だってかつてやったほうですよ。今じゃ、役も忘れかけてますけど。
ゲソ:だったら分かっていると思うが、麻雀は哲学でもあり、心理学でもある。更に数学でもある。つまり、あらゆる学問が実はたっぷり詰まっている。
ザク:相手の手を読んだりすることなどですね。
ゲソ:それだけじゃないぞ。4人の情報交歓会でもあるのだ。色々な情報を引き出せるから学校に行くより、為になるのだ。私の研究発表の場でもある。
ザク:へんなの。
ゲソ:変ではない。確かに遊びの一面も拭いされないし。稼ぐ場でもある。生活費の一部に充当される崇高な競技なのだ。
ザク:それ違法じゃないですか。
ゲソ:なあに、大した金じゃないから、いいじゃないか。そのかわり、大負けすることだってある。昔ならともかく、今やっているのは可愛いもんだよ。せいぜいタバコ代にしかならない。
ザク:だーめっ!この対談は、全国のパソコンからアクセス出来るわけだから。良い子の皆さん、真似しないでね。

なんとなくテーマから逸脱しそうな予感
ゲソ:今日はテーマではなく、ちょっと脱線してみようか。
ザク:また脱線ですか。まともな路線には行かないんですね。
ゲソ:いいじゃないか。テーマなんかやってもつまらんだろが。それにテーマは山ほど転がっている。
ザク:じゃあ、今日は何について語ってくださるのでしょうか。
ゲソ:ある男の人生だ。今から遡ること23年前。ある優秀な大学生がいた。そいつは、科学者を目指していたんだが、大変な貧乏人でな。食うにも困っていたんだ。
ザク:まさか、それって博士のことじゃないんでしょうね。
ゲソ:いいから黙って聞け。それで、仕方なくその大学生は寝る間も惜しんで麻雀をやっていた。もちろん、稼ぐ為にだぞ。しかし、イカサマは一切無しで、独自の研究を重ね・・・。
ザク:ちょ、ちょっと、また麻雀の話ですか?
ゲソ:いいから、静かに聞きたまえ。その学生は科学者を目指していただけあって頭の回転が良かったのだろう。そこらへんの学生雀士の中ではずば抜けていた。しかしな、物足りなくなったのと、ちょっと有頂天になって新宿の裏通りなどのプロの雀士が出入りする店にも顔を出していたんだな。
ザク:よく、「お一人でも遊べます」なんて書いてある看板の店ですね。
ゲソ:だがな、そうしているうちに、単なる稼ぎというよりも、強い相手にぶつかってテクを磨きたくなったんだ。
ザク:プロの方は知らないけど、うまい人って、がんがんアガるでしょ?確かに凄いんだけど、楽しくないでしょう。それって。
ゲソ:早くアガるのもうまさのひとつだ。しかし、その中でもきれいな手でアガる奴もいた。そりゃ見事だったね。あの当時、そうだな三十七、八だったかな。遊び人風だが、えらい格好良いルックスの素晴らしい雀士と出会ってな。かけひきも彼はうまかった。実に落ち着いていて。ああいう雀士とはなかなか出会うことは出来ないな。その学生はいつの間にか彼を先生と慕うようになった。もっとも、向こうは迷惑がってたがね。
ザク:でも、そんなうまい人と麻雀やったらケツの毛まで抜かれていまうんじゃないですか。
ゲソ:ケツの毛というのは下品だな。もちろん、先生とはやりはしないさ。先生の近くにいて、打ち方を学ばせてもらっていたんだ。ある日、先生がその学生に言った。「君もずっと俺の打ち方を見ているだけじゃつまらないだろう。今度、でかい勝負があるから、一緒に囲まないか。」ってね。聞いてみたら、相手はヤクザだ。しかも、半荘で50万円が動くという。そんな金は無い。しかし、興味もあった。
ザク:引き受けたんですか?
ゲソ:学生は困ったね。取り敢えず知人に頼んで20万円くらい掻き集めた。それじゃ足りない。しかし、勝負に勝てばいいのだ。
ザク:あほな奴。
ゲソ:あほとはなんだ!まあ、あほと呼ばれても仕方無いだろうな。この世界では、金が無けりゃ、命も取られるからな。

麻雀は学問でもあるし、ドラマチックでもある
ザク:それでどうなったんですか?
ゲソ:先を急ぐな。どうだ、面白くなってきただろう。それでな、その学生は新宿の場末の雀荘に入ったね。しかし、南入(なんにゅう)の前に殆どハコテンになっていたんだ。警戒し過ぎてでかい手をどんどんツモらせてしまったんだな。
ザク:その先生はどうだったんですか?
ゲソ:やはり一度も上がってなかったから3位だった。でもな、フリコミを全くしないし、流局になってもきちんとテンパイしているから、ヘコミは少なかった。その時点で学生一人がへこんでいたという感じだろうか。
ザク:その学生さんはもはや俎の鯉の状態ですな。
ゲソ:もちろんだ。焦っていたさ。逆転するには、相当大掛かりな手が必要だ。ところが、あっと言う間にオーラスになって、もういよいよ命が無いという時に、学生の配牌が滅多に無いいい手だったんだ。ドラもあったし、混一に何かが絡んで倍満のリャンシャンテンだったかな。が、だ。それでも逆転出来ない。ところがだよ、ツモる牌が全部同じ種類。そう、清一の手に発展してきたんだ。早い段階で字牌にさよならしたら、今度はあの幻の九連宝塔の目が出てきた。九連だぞ。もちろん、そんなもん絶対アガれるわけがない。最初の取り決めでも3倍役マンだ。アガれば多分死んでしまう。
ザク:そんな大げさな。
ゲソ:大げさではない!現に私の知人も死んでいる。チンイツは、ややこしくて、うっかりするとフリテンをこいてしまうのだ。
ザク:そんなもんですかねえ。
ゲソ:学生がふと気づくと、周囲もどうやらいい手なんだ。対面のヤクザは[中]をポンしていて、しかもどうも[白]も暗刻ってる気配。おそらく[発]も対子(2牌)はあるだろう。まあ、そのまま逃げ切ればトップなのだが、欲が出たのか、大三元狙いは間違いない。まして親だったし、逃げ切ろうたって、自分がアガれば、また続いてしまう。一もう一人のヤクザは分かりやすい手だった。チャンタ狙いだろう。ドラも抱えていた。にやついてるところを見ると、かなりいい手に発展しつつあったのだろう。こいつにアガられても、学生の命は無い。
ザク:先生はどうしたんですか?
ゲソ:むう。先生は黙々と打っていて、何をやってるのか分からん。ただ、相当でかい手が出来つつあることを感じたね。
ザク:みんな大きい手を狙ってるなんて、そんなことあるんですかねえ。
ゲソ:あるんだね、これが。そういう時に限って。
ザク:でも学生さんのチンイツはどうもウソ臭いなあ。それが九連に展開していったんでしょ?積み込みでもやらなければ、無理でしょ。
ゲソ:そう!絶対に無理!あんなに無駄ヅモの無い展開は見たことがない。君の言う通り爆弾しかない。つまり仕掛けたんだな、その先生が。しかも、一回ヤクザが泣いた後の展開まで読んでいたのだな。まあ、確証は無いし、未だに謎だがな。
ザク:それでアガれたんですか?
ゲソ:降りた。ラス3巡目に[発]を引いてきてな。イーシャンテンだったが、崩したんだ。もちろん、チンイツの目ではとっくにテンパイしていたのだがな。
ザク:もったいないですね。
ゲソ:もったいない。対面の三暗刻なかったら、平気で捨てたんだが。だが、衝撃は次に起きた。さっき捨てた牌を捨てずして、[発]を捨てていれば、九連のテンパイだったのだ。学生はさすがに動揺して、小便をちびりよった。
ザク:そりゃそうですよ。私も九連のテンパイは見たことがない。それ以前にチンイツはややこしいので、わけが分からなくなってしまいますね。フリテンこいちゃうとか。
ゲソ:ハイテイは私で、その一つ前のツモで先生がアガった。なんと四暗刻だ。たちまちトップに躍り出て、半荘が終わる。学生は、もしやと思い、次にツモる筈の牌を覗いてみた。なんとたまげたことに、本来だったら九連宝塔を上がっていた。学生は、はらはらと泣いた。あまりにも厳しい現実に涙が出た。
麻雀ほど奥行きを感じるものはほかにはないね!ザク:清算はどうしたんですか?学生はいくら負けたんですか?
ゲソ:さあ、分からん。80万円くらいじゃないか?
ザク:半荘で、ですか?
ゲソ:そういうことだ。実際には先生に払うような感じになったがね。
ザク:借金でもしたんですか?
ゲソ:いいや、一銭も払わなかった。その代わり、店の外で先生に思い切り殴られた。「二度と俺の前にツラを出すな。」と言われた。「二度とこういう店に出入りするな。」と言われた。学生は悔しかったが、今でも先生のことを崇拝している。それが、この私だよ。今でこそ、科学者であり、人格者であり、ベイタウンのブレインと言われているが、こんなドラマがあったのだ。分かるかね、君。それがロマンというものだよ。麻雀の奥が深いという意味、そして人生そのものだ、と言ってる意味が分かるだろう。何故あそこで勝負しなかったのか、そして、なぜ私が泣いたのか、それが君に分かるか。チンイツでアガって、少しでも負けを減らすことだって出来たんだ。しかし、敢えて九連を狙い、そして[発]で降りたのか。ここがポイントだよ。後で分かったんだが、対面はテンパイしていなかった。それにこれは想像だが、私が九連で勝負していたら、先生は四暗刻をわざとアガらずに終わらせていたと思う。
ザク:そうなんですか?
ゲソ:私を試していたんだな。しかしだ、もし私が九連をアガれば・・・。
ザク:どうだったんですか?
ゲソ:きっと死んでいたんだろうな。もしくは、今の私はいなかった。永遠に新宿の場末の雀荘に入り浸り、もしくはその辺りで野たれ死にさ。
ザク:博士。なんとなく分かります。でも、作り話みたいだなあ。
ゲソ:何を言ってるんだ!本人が言うからには間違い無い。
ザク:分かりました。貴重なお話、有難うございました。

次回は、まじめにやりましょう!
ザク:しかしですよ、このシリーズは科学をする、ってことで始まってますから、もう少しアカデミックにゆきましょうよ。あ、いえ、麻雀が非科学的とかそういう問題じゃなくて。
ゲソ:分かってるって、今回のはどちらかといえば、ロマンチックな話だったな。すまん、すまん。
ザク:ロマンチックというのでもないような気がしますが、い、いや失礼。ところで、次回のテーマは何にしましょう。
ゲソ:なんだっていいさ。テーマは無尽蔵にある。
ザク:昨日、釧路沖の地震がありましたよね。地震のメカニズムというテーマはどうでしょうか。併せて、地震対策などを話して頂くというのは。
ゲソ:そんなの専門家に任せればいいことだ。地震についての一般論は誰でも知ってるだろう?
ザク:専門家ねえ。そうだ、17番街にお住まいのようさんは地質の専門家です。地震はまた分野が違うのかもしれませんが。しかし、そういえば博士の専門ってなんでしたっけ?
ゲソ:強いて言えば、森羅万象なんでも来い、というところかな。
ザク:浅く、広く、ということですか?
ゲソ:失敬なこと言うな。広く、そして深くだ。
ザク:それは不覚でした。うすらば研究所 TOPページへ
ゲソ:つまらん洒落を言うな。

2003/9/27 Oretachi's Home Page


ドクター・ゲソ
1957年生まれ。東京○○大学卒、三流企業に勤める傍ら、「科学やってみんべよー。」というコンセプトで独自に科学の研究を重ねる。2000年、自らを科学者と名乗り独立、くだらない発明などをするが、飽きちゃったので、現在執筆活動に専念する。ベイタウン在住。大の音楽ファンで、プログレロックが大好き。磯辺の「魚よし」では必ずゲソを注文する。

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